100回目の口付けを

ぽんちゃん

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その後

60 バルトロイ弟

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 僕が足を止めたことに気づいた三人は、どうしたのかと僕の視線の先を追う。

 お客さん達は顔を顰めているけど、店員さんはあわあわとしているだけで、止めに入れない様子だ。

 「止められるかわかりませんけど、僕が話を聞いてきますね?」
 「で、でも。確か、侯爵家の方ですから……」
 「そこは多分、大丈夫」

 僕も一応この国の王子だしね。

 フードから顔を少しだけ出して、ユメルさんを真似してパチリとウィンクをすると、店員さんが目をひん剥いてぶっ倒れた。

 引きこもりの僕の顔は知らない人が多いはずだけど、彼は僕が第三王子って知っていたのかな?

 三人が慌てて店員さんを抱き起こしている間に、揉めている二人の間にそろっと足を運んだ僕は、お土産に買ったチョコチップクッキーを、騒ぐ美青年の口に突っ込んだ。

 謎のフード野郎から得体の知れないものを口に突っ込まれた美青年は、驚いてチャーリー君の胸ぐらから手を離す。

 「っ、な、なにすんだよ?!」
 「お静かに。他のお客様もいますよ?」
 「チッ。バルトロイ家を敵に回すとは良い度胸だな? このチビ」

 僕が一番気にしている悪口を吐き捨てられて、ドンと肩を押された。

 よろける僕の体を受け止めてくれたチャーリー君は「お怪我は?」と優しく僕を労ってくれる。

 「大丈夫だよ、チャーリーお兄ちゃん」

 頭上からひゅっと息を呑む音が聞こえて、ゆっくりとチャーリー君が僕の顔を覗き込んで絶句する。

 「お兄ちゃん? お前、兄しかいないよな?」

 僕の背後から不機嫌そうな声が聞こえてきて、振り返った僕は、チャーリー君を守るように腕に抱きついた。

 なぜか、ピョンと飛び跳ねたチャーリー君。

 その様子に、彼らと一緒に来ていた友人達はコソコソと内緒話をしていた。

 「バルトロイ家ってことは、ディーン様の弟?」
 「ふんっ、いかにも」
 「そうなんだ! 僕、ディーン様とはお友達!」
 「あーそー。どうでもいいけど、兄上に言い寄っても無駄だからな? 俺も兄上も天使信者だから」
 「ん? よくわからないけど安心して? 僕、チャーリー君のお兄ちゃんのユーリと恋人だから。あっ、でも心配なら、念のためにディーン様にも近づかないようにするね?」
 「………………え、」

 なぜか何も喋らなくなった美青年は、その場で棒立ちのまま動かなくなった。

 とにかく、騒ぎを起こしたことを周囲のお客さんと店員さんに謝罪して、硬直する美青年を席に座らせた。

 ついでに僕も、チャーリー君の隣に腰掛ける。

 「チャーリーお兄ちゃん、何に揉めてたの?」
 「あっ……いや、別に。ヴィヴィ、が……気にすることじゃないから……」
 「そうなの? それなら良いけど……。ちょっと心配だったから……。余計なお世話だったね?」
 「っ、いや、嬉しい。ありがとう……ヴィヴィ」

 つり目を和らげるチャーリー君は、ジュエルお母様似なんだけど、どことなく雰囲気がユーリに似ている気がする。

 「可愛いっ」
 「っ、ヴィヴィの方が何百倍も……可愛い、」

 頬を赤らめるチャーリー君に、お友達が「あのチャーリーが?!」と声を上げる。

 あのチャーリーとは、どのチャーリー?

 よくわからないまま首を傾げていると、ユメルさん達がそろそろ帰ろうと声を掛けてくれて、すっかり三人を忘れていた僕は慌てて席を立つ。

 「チャーリーお兄ちゃん。今日のことは内緒にして欲しいんだ。ユーリに内緒で来てるから……」
 「大丈夫、口止めしとく。ヴィヴィ、は気にしなくていいよ」
 
 頼もしいチャーリー君にお礼を告げた僕は、その場を後にする。

 待たせていた三人に、彼はユーリの弟だと説明すると、全然似てないと三人とも驚いていた。

 「そうですか? 目元を和らげたときの顔とか、優しい口調がそっくり。二人とも可愛い」
 「あー。恋は盲目ってやつっすね?」
 「ヴィヴィたんはつり目が好きなのぉ? じゃあ、レンジは対象外ね?」
 「チッ、一言多いんだよ、クソ野郎っ!」

 レンジさんとパールさんがいちゃつきはじめて、僕とユメルさんはその様子を温かく見守る。

 お店の前でわちゃわちゃしていると、チャーリー君に突っかかっていた群青色の髪の美青年が慌てて飛び出してきて、おずおずと僕の前に立つ。

 「っ、白銀の、天使様……でしょうか?」
 「違います」

 即座に否定した僕に、ユメルさんが美青年に向かって「天使様です」と答える。

 「ユメルさんが天使様?」
 「ふふっ、ヴィヴィたんは何も知らなくて良いですよ」

 穏やかに笑ったユメルさんが、僕のフードを少しだけめくって、色っぽい目元が魅惑的な雰囲気の美青年と目が合った。

 「ハッ……まさか、そんな……」

 いきなり膝をついた美青年は、涙を流しながら先ほどの無礼を謝罪し始める。

 泣き止まない彼にどうしようとあわあわする僕は、「怒ってないよ」と優しく話しかけて、背中を撫でてあげた。

 なぜか最後は僕に向かって拝んでいたけど、結局僕が馬車に乗り込むまで彼が泣き止むことはなかった。

 そういえばディーン様の弟って聞いたけど、名前は聞き忘れたな。
 また今度会った時に聞いてみよう。

 なんだかんだで時間を押しまくった僕は、急いで帰ったけどユーリのお迎えに間に合わず、僕の部屋で仏頂面をする恋人に、どこに行っていたんだと問い詰められることになるのだった。

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