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その後
59 初めての外出
しおりを挟む護衛をぞろぞろと引き連れて、フードを被る僕は、お出かけ前なのにすでに疲れきっていた。
なぜなら、どこから嗅ぎつけたのか、出かける際にナポレオン兄様に捕まったのだ。
外出する経緯を話すと、すぐさま店を貸し切りにしろと指示を出すナポレオン兄様に「お店の雰囲気も知りたいので!」と説得するのにかなり時間がかかってしまった。
お待たせした三人と合流して謝罪した僕は、さっそくチョコケーキが有名なお店にやってきた。
初めての外出はユーリと一緒だろうと思っていたけど、こんな形で外出することになるとは。
でも全てはユーリの笑顔を見る為だ。
護衛の皆さんには申し訳ないけど外で待ってもらって、三人に隠れるようについていく僕は、店内にふわりと香る甘い匂いに、すでに幸せな気分になっていた。
きょろきょろと賑わう店内を見渡しながら、奥の個室に案内してもらう。
メニューを手渡されて見てみれば、お勧めはチョコケーキ。
そして、気になったのが透明なグラスに芸術品のように美しく盛り付けられた、大きめのパフェ。
「恋人同士で食べると幸せになれる……」
「ふふっ、ヴィヴィたんはケーキじゃなくて、パフェが気になりますか?」
「はいっ。僕、ユーリと来たら、これを頼みたいですっ! ユーリ、すごく喜びそうっ」
ユーリの笑顔を想像してぱぁっと顔を綻ばせると、隣に座っていたユメルさんが、足をジタバタとさせて「可愛い」を連呼する。
……ユーリ二世だ。
「んじゃあ、チョコケーキは食べたことあるんで、俺とパールでパフェを頼みますよ!」
「やぁん、なんでレンジとなのよぉ~! あたしはヴィヴィたんと食べたいぃ~!」
「そんなの、俺だってヴィヴィたんとが良いに決まってるだろっ! 馬鹿なのか?」
「あーあー、口煩い男は嫌われるわよぉ~?」
「お前の方がうるせぇだろ、ボケッ!」
罵り合いながら、なんだかんだで仲の良いレンジさんとパールさんは、結局二人でパフェを食べることになったらしい。
僕はお勧めのチョコケーキで、ユメルさんは二番目に人気のチーズケーキを注文した。
もし美味しかったらお持ち帰りも出来るかな?
あ、でも外出したことがバレちゃうか。
仲良くなった四人でわいわいお喋りをしながらケーキを待つ時間も、すごく楽しい。
甘さ控えめの紅茶と丸い形のチョコケーキが運ばれてきて、表面の光沢に贅沢感が感じられる。
さっそく食べてみると、中の生地はふんわり食感だけど、しっとりもしているし、外側のチョコレートは苦すぎず甘すぎず、濃厚な味わい。
ほうっと感嘆の声を上げる僕を、ユメルさんが羨ましそうに見つめていた。
僕のためにケーキを被らないように注文してくれたであろうユメルさんに、少しお行儀が悪いけど、ケーキを一口サイズにカットして、お裾分けする。
「ユメルさん、あーん」
「っっ! あああああ、あーんっ! あむ、んっ、お、おいしぃ、すごくっ、カハッ……」
口許を両手で押さえるユメルさんは、相当美味しかったみたいで、激しく咳き込んでいた。
「あーん! あたしもぉ!」
「そんなことしたら、ヴィヴィたんの分がなくなるだろうが! パールは俺とパフェを食べろ」
「やーだぁー、っ、むぐっ」
「ほら、食え食え。幸せになれるぞっ!」
嫌がるパールさんの口にどんどんフルーツを突っ込むレンジさんは、いきなり意地悪スイッチが入ったのか、悪魔的な笑みを浮かべて「あひゃひゃ」と笑っている。
三人の中で一番まともだと思っていたけど、どうやらレンジさんも少しおかしいようだ。
それから僕もユメルさんに濃厚なチーズケーキを食べさせてもらって、美味しすぎて大満足だった。
パフェも味見してみたかったけど、恋人同士で食べたいから、ユーリと来た時のお楽しみだ。
一時間ほどまったりした僕は、お土産にチョコチップクッキーを購入した。
帰り際に店員さんに「美味しかったです」と感想を伝えると、あのケーキは『ザッハトルテ』という種類で、チョコレートケーキの王様と言われているというちょっとした豆知識を教えてもらった。
顔を隠す僕にも親切に接客してくれる店員さんの態度に、デートはここで決まりだな、と決定付けた。
席を立って帰る際、ガシャン! と大きな音がして目を向ければ、何やら言い争う集団が。
群青色の髪の美青年に胸ぐらを掴まれている、茶髪に鋭いつり目のユーリの弟だった。
「ふざけるな!」
「別にふざけてねーし。俺は事実を述べただけだぜ?」
「なんでお前みたいな平凡なやつが、」
「兄貴のおかげ」
「っ、俺の兄上を馬鹿にしてるのか?!」
「……なんでそーなるんだよ」
「俺も、俺の兄上も、グレンジャー兄弟より美形なのにっ!」
グレンジャー兄弟より美形って、自分で言っちゃうんだ。と傍観していた僕は、すごい自信だなと群青色の髪の美青年を見つめる。
確かに顔立ちは整っているけど、ユーリとチャーリー君のことを馬鹿にしてるよね?
大切な人を馬鹿にされて、幸せな気分が台無しになった僕は、ちょっぴりカチンときてしまった。
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