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その後
54 どちらも?!
しおりを挟む僕は焦っていた。
なぜなら、後蕾が疼いて仕方がない。
自分でしてみようかとも考えた。
勇気が出なくて三日経ち。
そしてようやく決心してやろうとしたけど、指が届かなかった。
……もう死にたい。
ユーリに「お尻触って?」ってお願いしたら良いだけの話なんだけど。
それが出来ないのが僕なんだ。
ユーリの顔を見ると、どうしても触って欲しくなるから、後蕾を気持ち良くされてから、お迎えにも行けなくなっている。
親友のライオネルに相談しようかと思ったんだけど、手紙を書いてもなかなか返事が来ないし、領地に引っ込んでいると風の噂で聞いた。
そんな僕は、現在、お友達になったユメルさんとお茶をしている。
胸元まで真っ直ぐに伸びる緑色の髪がすごく綺麗なユメルさんは、銀縁眼鏡をクイッと持ち上げる。
「ヴィヴィアン殿下とこうしてお茶を出来る日が来るだなんて……。幸せすぎて、手が震えます」
確かにカップを持つ手が、ガタガタと震えまくっている。
そんな可愛らしいユメルさんに、恥を忍んで相談することにした。
「実は僕。ユーリに触れられるだけで、その、気持ち良くなっちゃって……。変態になってしまったんです……」
「まぁ……それはなんと……」
「ええ、末期症状なんです」
真剣に話を聞いてくれるユメルさんは、ユーリと違って僕の恥ずかしい話を聞いても一切笑うことなく、相槌を打ってくれる。
「こんな話、誰にも相談できなくて……」
「私で良ければ是非!」
「うぅっ……ありがとうございます。単刀直入にお聞きしたいのですが、ユメルさんは……抱かれる側なんでしょうか? それとも、抱く側……?」
僕の予想では、華奢で大きなお目目が可愛らしい見た目だから、ユメルさんは抱かれる側。
そう思っていたのだが、ふふっと穏やかに笑ったユメルさんは、まさかの「どちらも」と答えた。
ごくりと唾を飲む僕に、にっこりと笑うユメルさんは、お上品に紅茶を飲む。
「私は相手によって変えますね。泣かせたいと思う相手は抱きますし、私より雄々しい相手には抱かれたいと思います」
「すっごく、びっくり……」
「ヴィヴィアン殿下の場合は、グレンジャー様がお相手ですから、必然的に抱かれる側になってしまいますね?」
顔を赤らめて、素直にこくりと頷く僕に、「きゃん!」と可愛い声を出すユメルさん。
そして、謎の薄い本をコッソリと手渡してくれた。
なぜいきなり本を渡してきたんだ? と首を傾げながらパラパラとめくると、二人の男性が睦み合う絵が描かれていた。
カッと目を見開いてすぐに本を閉じた僕に、くすりと笑ったユメルさんは、「参考までに」と僕に薄い本をプレゼントしてくれた。
「触れ合うことで気持ち良くなれるのは、変態だからではありませんよ。お互いの気持ちが通じ合っているからこそ。もし、それが変態というのなら、この世のすべての人は変態です」
「っ! そう、なんですね! じゃあ、僕は、ユーリにされることを、素直に受け入れれば……」
「えぇ。むしろ、もっとして欲しいと可愛くおねだりされたら、抱く側はたまらない気持ちになると思います。実際、私はそうですから」
経験者は笑顔で語る。
「確かに……。初めてキスをしたときは、すごく幸せな気持ちになりました。……ただ、どんどん行為が卑猥なものになるにつれて……」
「気持ちが追いついていないのかもしれませんね?」
「……そうなのかもしれません。ただ、」
「ただ?」
「この前は、気持ち良すぎて、気を失いました」
ごくりと喉を鳴らす大きな音が響く。
「ま、まだ、最後までしてませんよ? で、でも、その前の段階で、ひどい痴態をさらしてしまって……。やめてって言いながら、気持ち良くなってしまった自分が、恥ずかしくて……。し、しかも、ユーリの顔を見ただけで……疼くんです……。もう、頭の中が、そういうことしか考えられなくなってしまって……」
沸騰しそうなほど顔を真っ赤にする僕は、しどろもどろになりながらも本心を語る。
「はぁ……。どうしましょう。本当に可愛すぎて、グレンジャー様は相当大変ですね……」
「……え?」
「素直な気持ちを伝えてみてください。きっと喜びますよ?」
「それは、恥ずかしくて……。結局、この一週間、避け続けています」
あらまぁ、と嘆くユメルさんに、情けない僕は体を縮こまらせる。
「それに、僕もユーリをあんあん言わせたい」
ブフーっ! と豪快に紅茶を吹き出したユメルさんは、優雅に口許をハンカチで拭いて、紅茶の水滴がつく眼鏡も綺麗に拭き取った。
そして何事もなかったような顔で「さすがです」とよくわからない返答をする。
「それをグレンジャー様にも伝えましたか?」
「えぇ、盛大に笑われました……。僕は本気なのにっ」
「それは……。可愛くてたまらなかったんだと思いますよ?」
唇を噛み締める僕は、ぷくっと頬を膨らませる。
そんな僕に「きゃわっ!」とユメルさんが呟いて、しきりに眼鏡を拭きまくる。
「ヴィヴィアン殿下の感じている姿を見ることができるのは、恋人であるグレンジャー様のみの特権です。むしろ、自分の手で愛する人が気持ち良くなっている姿を見ることができて、彼も喜びを得ていると思いますよ」
「恋人の……特権……」
「はい。ですから、変態だなんて思ったりしません。むしろ、喜ばしいことですからね?」
優しく諭された僕は、素直にユーリに甘えようと意を決した。
相談に乗ってくれたユメルさんに笑顔でお礼を告げて、またお茶をしようと約束した。
「ちなみにその本は、ヴィヴィアン殿下とグレンジャー様を題材にしたものです」
可愛らしくウィンクしながら最後に爆弾発言をされた僕は、ぴしりと固まってしまうのだった。
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