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その後
50 ファンサービス
しおりを挟むユーリの家族に僕達の結婚を認めてもらうことができ、さらには温かく歓迎してもらえたことに、僕の胸は陽だまりのようにぽかぽかだ。
そして一週間が過ぎて、ユーリとお泊まり会をする日を迎えた。
これからは週に一度、お泊まり会を開くことになった僕は、この日が待ち遠しくてたまらない。
毎日日記に、お泊まり会までのカウントダウンを記す僕は、ユーリとの秘事を、とにかく数えたくて仕方がない病気だったみたいだ。
別にエッチなことをすると決まっているわけじゃないのに、閨の指南書を極秘で用意して熟読した僕は、相変わらずの変態だ。
そして今日も今日とて、訓練場で稽古をするかっこいい恋人の勇姿を脳裏に焼き付ける僕は、閨の指南書を読んだせいで、いつも以上にユーリを意識し過ぎている。
遠くから見ているだけなのに、心臓がバックバクでもう破裂しそうだ。
恋人がかっこよすぎてフラつく僕を支えてくれるのは、この間仲良くなった僕と同じくユーリを敬愛する仲間たち。
初めは六人だったけど、今は二十人ほどに増えている。
僕がユーリの恋人だと分かっても、仲良くしてくれる彼らは本当に心が広いと思う。
そして、ユーリのことを本当に愛していることもひしひしと伝わってくるのだ。
だって、普通なら大好きな人の恋人だと分かれば、嫉妬して嫌味の一つも言いたくなるはず。
それなのに、毎回会うたびに笑顔で声を掛けてくれて、お菓子や本、筆記用具など、僕が欲しいと思っているものをプレゼントしてくれるんだ。
そんな彼らと一緒にユーリを見ながら、キャーキャー騒ぐのが楽しくて仕方がない毎日。
ユーリのおかげで友人も増えて、ほくほく笑顔の僕に対して、最近のユーリは出会った頃のような仏頂面だ。
そして稽古を終えたユーリが、僕の仲間たちに鋭い視線を向けるというファンサービスをする。
すぐに黄色い声が上がり、僕は胸の前でこっそりと小さく拍手する。
ユーリのファンは、みんな『マゾヒスト』という部類らしく、睨まれたり蔑まれたりすると興奮する性癖らしい。
「ヴィヴィアン殿下、また明日!」
「うん! またね! バイバイっ!」
帰っていく仲間たちに元気良く手を振る僕の手首を掴んだユーリは、口をへの字にさせている。
「また貰ったのか?」
「うんっ! ユーリのファンの子たちはみんな優しいよね! ほら、これなんて、僕の好きな作者の最新巻だよっ! 寝る前に一緒に読みたいっ!」
貰ったプレゼントを抱きしめて、にこにこ笑う僕に、「うっ」と呻き声を上げたユーリは、ガックリと項垂れる。
汗で金色の髪が少し濡れて、普段よりセクシーなユーリにドキドキする僕は、乱れた髪を優しく整えてあげる。
そんな僕に、俯いたまま流し目を送るユーリが色っぽくて、その場で心臓を撃ち抜かれた。
でも眉間に皺が寄っているから、僕は少し背伸びして、ちゅっと頬にキスをする。
そうすると、不機嫌だったユーリはすぐに笑顔を見せてくれる。
最近気づいたけど、ユーリは僕からキスをするとすごく喜ぶんだ。
普段は恥ずかしくてあまり自分からはしないけど、ユーリの笑顔が見れるなら、僕は人前でも何度だってユーリにキスをする。
そして二人で僕の部屋に着き、プレゼントを持ってくれていたユーリは、すぐさまお菓子を齧る。
毒味だと言っているけど、結局一人で全部食べるから、ユーリなりにファンの子たちを大切にしているんだと思う。
それをちょっとだけ嫌だと思ってしまう僕は、すごく卑屈な性格だ。
「僕も食べたい」
「いや、遅延性の毒かもしれない」
「一人でそんなに食べて、ないとは思うけど、もし毒が入ってたらユーリが死んじゃうよ?」
「俺は大丈夫。毒は効かない」
「超人だぁ……」
くつくつと喉を鳴らすユーリは、運動後の甘味を食べて機嫌が良くなる。
「ユーリって本当に優しいよね」
「……ん?」
「だって、ファンの子からのお菓子のプレゼントは、なんだかんだ言って、必ず一人で食べるでしょう? それにファンサービスで睨んであげてるし。最初はちょっとだけ嫉妬してたけど……ファンの子たちを大切にしているユーリを、今は尊敬してる」
ソファーに腰掛けている足をプラプラとさせて、照れ隠しをしながらユーリの顔色を伺う。
つり目を丸くしてぽけっとしていたユーリは、すぐさまコホンと咳払いをして「まぁな」と答える。
「僕もユーリのファンだよ?」
「ククッ、なに可愛いこと言ってるの?」
「そうでしょう? 第一号だもん」
真顔で頬を膨らます僕に、笑っていたユーリは、手にしていたお菓子をお皿に置いて、僕の方に体を向ける。
「ヴィー? 拗ねてるの?」
「拗ねてないよ? でも、ファン一号を一番大事にした方が……良いと思う」
口を尖らせて、ぶつぶつと呟く僕は、なんだかんだで嫉妬していることを隠し切れていない。
「可愛すぎて死ぬっ……」
「ユーリ?」
「いや……。もし俺が、あいつらのことなんてどうでも良いと思ってたらどうする?」
「どうするもなにも、」
話の途中にキスをされそうになって、顎を引いて、さりげなく拒否した僕はユーリを恨めしく見上げる。
「っ…………ごめん。嫉妬するヴィーが可愛くて、つい意地悪した。本当の俺は、ヴィー以外はどうでも良いと思ってるような奴だよ?」
ふっと笑ったユーリは、再度顔を近づけてくるから、キスで誤魔化そうとしていると感じた僕は少し距離を置き、ぷいっと横を向いて、大好きな人からのキスを拒むのだった。
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