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その後
42 黄金色の
しおりを挟むそれからというもの、ユーリは人前でもベッタベタに甘やかしてくれるようになった。
嬉しいけど恥ずかしい気持ちの方が大きい僕は、顔を赤らめてもじもじとすることしか出来ない。
そんな僕を見て「初心で可愛い」と、よりユーリを喜ばせてしまい、所構わずちゅっちゅされてしまう。
辱めを受けてもユーリに早く会いたい僕は、今日も今日とて訓練場の近くの大きな柱に隠れて、ユーリの勇姿を遠くから見守っている。
最近まで引きこもりだったことが嘘のようだ。
終了の号令がかかり、チラッと姿を見せると、すぐに僕に気付いてくれるユーリは、全速力で僕の元に走ってきてくれる。
毎日ハードな練習をしているというのに、ユーリはいつも余裕綽々なんだ。
「ヴィー! 早く部屋に行こう!」
「え、あ、でも、今日はこのまま庭園に行きたいって言ってなかった?」
「あぁ。でも、汗掻いて臭いから湯浴みしたい」
「ん? ユーリは汗を掻いても良い匂いだよ?」
逞しい上半身に顔を寄せてくんくんと匂いを嗅ぐ僕は、やっぱり良い匂いだと頷く。
そしてこてんと首を傾げると、口許を手で隠してそっぽを向くユーリは耳が赤くなっていた。
「もしかして照れてる?」
可愛いと呟いてくすりと笑っていると、むっとするユーリが僕を抱きしめて、耳元でコソコソと話してくる。
「ヴィーが変態だってこと忘れてた」
「っ……へ、変態は関係ないよ、本当に良い匂いだもんっ」
「ふぅ~ん? じゃあこのまま行こう。あとで臭いって言うのは無しだから」
「………………お茶するだけだよね? ねぇ、ユーリ? 僕の話聞いてる?」
僕の手を引いてスキップしそうなほどご機嫌なユーリは、僕の話をしれっと無視して、人目のつかない庭園の隅っこまで歩いていく。
そして、両方の手を繋いで向かい合った。
「ヴィー。俺はこの十年、ただひたすらヴィーのことだけを考えて生きてきた。ヴィーを守る騎士になりたい。俺は、ヴィーのことだけを愛してる。その気持ちは俺が死ぬまで、いや、死んでも変わらない。必ず幸せにするよ、ヴィー。だから、ずっと一緒にいて欲しい」
煌めく金色の髪がサラサラと風に靡いて、黄金色の瞳は僕だけを映している。
もしかして、これは……プロポーズ?
熱烈な言葉に胸を打たれた僕は、笑顔で頷いた。
「僕もユーリと同じ気持ちだよ。ユーリと出逢ってから、ずーっとユーリに夢中だよ? ……僕はユーリみたいにかっこよくないから、立派な騎士にはなれないけど……。ユーリのお姫様になりたい。それでハッピーエンドを迎えたいよ」
「っ…………クソ可愛い」
デレッとした顔で下品な言葉を吐いた僕の王子様は、その場で跪いて僕の手の甲にキスをする。
そして指輪を取り出して、左手の薬指にはめてくれた。
黄金色に輝く指輪は、僕の指にぴったりで、いつの間にサイズを測っていたんだろう、と嬉しくて目頭が熱くなった。
「やっぱり、ユーリは、何でも出来る、僕のかっこいい王子様……っ」
「ヴィーっ!」
ひしっと抱き合う僕達は、引き寄せられるように口付けた。
顔を見合わせてにっこりと笑った僕は、世界で一番幸せ者だ! と心の中で絶叫した。
「心の準備、出来た?」
「ひぇっ?!」
「もう結婚するって決まったから、心置きなくヴィーを抱いて良いよね?」
「ゆ、ユーリ? もしかして、それが目当て……じゃない、よね?」
片方の口角を上げてニヤリと笑うユーリに、僕は口をはくはくとさせる。
「あははっ、違うって! 大好きなヴィーと、一分一秒でも早く結婚したいと思ってたから、プロポーズしたんだよ? ……もちろん、抱きたいけど」
「っ! 下心が見え見えなんですけどっ?!」
「ククッ、もう下手に隠す必要もないしね? だって、俺の可愛いお姫様は、性格も見た目も性癖も、全てが俺のドストライクだからなっ!」
ババーンと胸を張っているユーリは、僕の性癖までもドストライクだと宣う。
……さっきの感動を返して欲しい。
そんなユーリにじっとりとした目を向ける僕だけど、内心では僕のマイナスな部分も含めて、全てを愛してくれているんだとわかって、すごく嬉しかった。
でも、僕は恋人のストーカーになるほどユーリのことが好きなのに、その状態で抱かれたら、もうメロメロになっちゃって大変なことになりそうだ。
だからやっぱり、初夜まで待った方が良いと思われる。僕自身のために……。
「え、エッチは、初夜にとっておこうよ……」
「ぷはっ……! ヴィー、もう一回! もう一回言って? 初心なヴィーの可愛い顔でエッチって言葉、めちゃくちゃクルッ!」
「~~っ! もう、揶揄わないでよっ!」
つり目を細めて、「もう一回」と繰り返して、楽しそうにくつくつと笑っているユーリ。
本当は僕の心の準備が出来ていなくても気にしなくて良いとばかりに、ふざけてくれていることに僕は気づいている。
本当、優しいんだから。
僕を揶揄ってにっこりと笑っているユーリの胸元をぺしぺしと殴る僕は、優しいユーリを喜ばせたくて「途中までなら……」と口にする。
サッと真剣な表情になったユーリは、僕のことをお姫様抱っこして、足早に部屋に戻るのだった。
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