100回目の口付けを

ぽんちゃん

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その後

41 バカップル ユーリ

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 ヴィーの学園時代の友人と宣う輩から、ヴィーに渡して欲しいと手紙やプレゼントを手渡された俺は「必ず渡しておくよ」と優しい口調で対応する。

 そして、俺の承諾なしに天使に告白した無礼な輩リストを引っ張り出して、名前を確認し、渡されたプレゼントを握り潰す。

 「ハッ。少し優しく話しただけで俺を信じるなんて。……心底間抜けだな」

 手紙がチリチリと燃えていく様を見つめ続けながら嘲笑う俺は、こうしてヴィーに近づこうとする害虫を撃退する日々を過ごしていた。

 世間には俺とヴィーが婚約関係だと知れ渡っていないため、ただの兄の友人だと思われている。

 それでもヴィーに心酔する学園時代の友人達は、俺とヴィーがどういった関係なのかを噂している。

 だから噂話に花を咲かせている奴らに、ご丁寧に恋人だと宣言してやるのだが、尻尾を巻いて一目散に逃げていく。

 まぁ、俺が抜刀しているからな?

 
 正直、まだ恋人になって日が浅い俺達のことは、放っておいて欲しい。

 だが周囲は、そんな俺の気持ちを無視するように、俺のファンだと宣うドM野郎達も、ヴィーに話しかけている始末だ。

 俺に睨まれて喜ぶドM野郎達は頭が狂っているから、何をするかわからないため、俺はヴィーが傷つけられないか心配で仕方がない。

 いくら世の中の奴らの大半がヴィーの顔を見たことがないとはいえ、王妃様譲りの美貌を見て、相手が王子だってことに気付けよ。




 訓練場の隅で取り囲まれるヴィーを助けに行こうとしたが、聞こえてきた声に俺は足を止めた。

 「私達は、学園時代から三年間! グレンジャー様をお慕いしておりました! ぽっと出の貴方に譲るつもりはございませんっ!」
 「ユーリが皆さんに好かれていることが知れて、とても嬉しいです。でも期間で言えば、僕もユーリを十年間ずっと好きですし、恋人になってもストーカーするほど、彼を愛しています」
 
 五、六人に囲まれていたヴィーが、堂々と俺を愛していると宣言していた。

 自分の気持ちを口に出すことが苦手で、守ってあげなければいけないと思っていたヴィーが、俺のために勇気を振り絞って戦っていた。

 「でも、恋をすることはその人の自由だと思います。ユーリに惹かれる気持ちは僕にも充分わかるので、告白したいのであればどうぞ。僕に止める権利はありませんので」
 「ず、随分と余裕ですね?」
 「余裕? そんなもの微塵もないからストーカーになっているんですけど……」
 「ふっ、ふん! それなら勝手にやらせていただきます! あとで何を言われても、知りませんからね?!」
 「えぇ、そうしていただいて結構ですよ。もしそれでユーリが僕以外の人を選んだとしても、ユーリが幸せになるのなら、僕は喜んで身を引きますよ。それくらいユーリを心から愛していますから」

 屈託のない笑みを向けられた野郎共は、言葉に詰まる。
 そして取り巻きの一人がヴィーに声を掛けた。

 「グレンジャー様の……どこがお好きなんですか?」
 「全部ですね。特に、努力家で思いやりがあるところ。何でも出来るのにちょっと抜けているところ。それから、笑った顔が可愛い」
 「……グレンジャー様のお話ですよね?」
 「え? えぇ、そうですけど……」

 戸惑うヴィーにもっと聞かせろと騒ぐ野郎共に、丁寧に答えていくヴィー。

 気づけば敵対していたはずの野郎共全員と、俺の話題で盛り上がって仲良くなっていた。

 そこへ赤髪の親友が友人達を連れてヴィーの元へ歩み寄り、野郎共は頭を下げる。

 ヴィーだけ顔を上げたままニコニコ笑っている様子に、野郎共は無礼者だと戦々恐々としていた。

 「ヴィー! こんなところで何してんだ? またユーリの追っかけか?」
 「ナポレオン兄様っ!」
 「に、兄様……っ?!」

 パッと顔を見合わせた野郎共は、徐々に顔色が悪くなっていく。

 「ん? ヴィーは俺の弟だぞ?」
 「ま、まさか……ヴィヴィアン第三王子殿下?」
 
 にっこりと笑ったヴィーに、野郎共が奇声を上げて走り去っていく。

 取り残されたヴィーは、きょとんとしながら「僕ってそんなに嫌われてたんだ」と的外れなことを宣っていた。

 「あいつらと何を話してたんだ?」
 「聞いてくださいっ! 彼らもユーリのファンみたいで! 僕の仲間でした!」
 「……そ、そうか。仲間? いや、ライバルの間違いじゃないか?」
 「ライバル……、なるほど。つまり、僕は悪役令息なのか……」
 「あ、悪役? ヴィーが?」
 「はい。みんなの憧れの主人公を独り占めしている悪役です。だいたい物語の最後では、主人公を好きすぎて狂って処刑されてしまう……。そ、そうならないように気をつけないと……。すでに好きすぎて狂ってる……」
 「いや、悪役は明らかにアイツの方だろう」

 ナポレオンの話を聞いていない様子のヴィーは、「ギロチン」と呟いて顔を青ざめていた。

 恋愛小説の読みすぎだろう。
 まぁ、俺もだが。

 俺は影でコソコソとヴィーのファンを根絶やしにしていたが、天使の毅然とした態度で敵を迎え討つ姿に、少しばかり……いや、かなり感動した。

 そして自分が低俗な男に思えて、本当に天使の王子様が俺なんかで良いのかとすら思えた。

 俺もヴィーを見習わないとな。
 
 そう思った矢先、ナポレオンの友人がデレ顔でヴィーに話しかけていて、カッと頭に血が上る俺は、すぐさま俺の恋人に駆け寄って濃厚なキスをかましてやる。

 そして害虫に殺気を放って睨みつけた。

 ……本当、俺はやることが子供すぎる。

 そう思って萎えていたのだが、視線を感じて見下ろせば、ヴィーは嬉しそうに頬を染めていた。

 くっ、今日も俺の天使が眩しいぜ!

 バカップル! と罵るナポレオン達を無視してイチャつく俺達は、早々に二人の世界に突入するのだった。

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