100回目の口付けを

ぽんちゃん

文字の大きさ
上 下
36 / 65
その後

36 心優しい僕の王子様

しおりを挟む
※このお話は三回目の2022年7月18日、慧が占ってもらう前です。時系列としては11話の直後となります。

 タイトルでも申し上げましたが、心臓の弱い方は閲覧注意です。心臓が並の人は平気だと思いますが、念の為お昼 に読んで下さい。ホラーが大好きな方にはちょっと物足りないかもしれません。





 俺はあれから慧と会えていない。共通の知人に聞いてみるが、嫌な顔をするだけで誰も教えてはくれなかった。

(あの噂のせいで…! 恵奈の奴…今度会ったら、ただじゃおかねえ!!)

 今、慧のアパートまで来ている。

 これが何回目なのか…彼女に会おうと何度訪ねてみても、呼び鈴の音が反応するだけで慧が部屋から出てくる事はなかった。

(今日も留守か…。もしや…引っ越したのか…?)

 何の手掛かりも得る事は出来ず、俺は慧の住むアパートを後にした。

(慧が何より大切だったはずなのに…いつの間にか忘れていた。失ってから気付くなんてな……。)

 沈んだ気持ちで薄暗い路地裏を歩く。慧のアパートから帰る時はいつもこの道を通るのだ。


「こんばんは!」


 背後から声を掛けられる。

 突然の事に驚き振り向くと、魔法少女のコスプレをした女の子が立っていた。

 彼女はとても愛らしく、その独特な魅力に惹かれそうになるが俺の勘が待ったをかける。

(今の今まで人の気配なんてまるで感じなかったのに……。)

「慧ちゃんの幼馴染だよね?」

(慧…だと…?)

「慧を知ってるのか? 教えてくれ! 彼女は今どこにいるんだっ!?」

「そんな事知ってどうするの?」

「会いに行くに決まってる!」

 彼女の手掛かりをようやく掴んだのだ。俺は居ても立っても居られなくなり、その少女を問い詰める。

「ダメだよ。個人情報保護ってやつだね!」

「くそっ!」

(周りには誰もいない…それならっ!)

 周囲を見回し人がいない事を確認する。

「良いのか? 今ここには俺とお前しかいないんだぜ?」

 俺は少女に凄んでみせる。こうして脅しつけてやれば素直に話すと思ったのだ。

 しかし……。

「それで?」

 少女はどこ吹く風といった様子で、笑顔を崩さない。まるで親しい友人と会話しているかの如く、俺の脅しなど気にもとめていない。

「…お前が今襲われても誰も助けちゃくれない。」

 フフッと笑い、平然と距離を詰めて来る少女。


「そうは言うけどさ……。それはアナタにも同じ事が言えるよね?」


 その態度が気に入らず俺は少女に掴み掛かろうと腕を振り上げ……。




 ボタっ



(腕が上がらねえ……。それになんの音だ…?)



 音の発生源を確認すると、腕に感じた違和感の正体がそこにはあった。 


 俺の腕が地面に転がっていたのだ。


(なん…で……?)


 全く痛みを感じなかった。何故俺の腕が地面にあるのかも分からない。


(コイツは何だ……?)


 少女に対する恐怖が沸き上がって来る。


「待て! 待ってくれ! 俺に何をした!?」



 少女は笑顔を浮かべるだけで、俺の質問には答えない。


「助けてくれ! なっ? なっ? お、お前も捕まるのは嫌だろ?」


 俺の命乞いは全く無価値なのか…少女は笑顔のまま、良くわからない事を言い出した。


「実はね…女神様が君みたいな人は嫌いなんだって!」



「俺を…殺す気……なのか?」


 相当ヤバイ状況にいる事を俺は自覚したが…既に遅かった。



「私もやり直しは飽きたし、アナタが居なければもっと上手く事は運ぶかもしれないの……。」


(何……を言って……。)


「た…たすけ……」

「だ・か・らぁ……。」


 ニタリと笑った後、突然目の前から少女の姿が消失する。


(消えた…? いったいどこ…)










「死んでね?」


 俺の耳元で小さな囁きが…清涼な声でやけに強く響き渡る。



 驚いて振り返ろうとするが……。


 突然、地面が自ら動いているように迫り来る。

 顔面が叩きつけられ…強い衝撃の後グルグルと世界が回り……。


(なんで…俺の体がそこにあるんだ?)


 俺は自分の体を地面から見上げるような恰好になっていた。






「お掃除完了! 良い仕事したなぁ。」






「…ぇ…ぇ……。」


「あれ? まだ生きてるの?」


(なんで声が……生きてるってどうゆう事だ?)



 俺は…何故か全く声を出せなかった。



「もしかして自分が死んでる事に気付いてないの?」



 不思議そうな顔で俺を見る少女。



(死ん……だ……?)






「面白ーい!! 活け造りのお魚みたいだね!?」




 俺が最後に見た光景は…少女の花が咲いたようなとびきり…笑顔だ……た……。
























「あー楽しかった!」

 少女は男の死体に未知の液体を振りかけた。

「今日の一言! バカは死んでも気付かない!!」

 すると、最初から何もなかったかのように男の体が消失する。



「この人は…過去、現在、未来、全ての時間軸において存在し得ない人物になっちゃった。」


 これでもうあの三人を邪魔する人は居なくなったなぁ…。



 少女はそう呟き…。
























「あれ?」
























「もしかして貴方…………今の見ちゃった?」






















「画面の向こうに居るよね……。」






















「見てるんでしょ? スマホ? タブレット? それともPC?」
































「貴方は……死んでる事に気付くかなぁ…………?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

処理中です...