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32 幸せな口付けを
しおりを挟むタオルで目元を冷やしたとはいえ、まだ赤みが取れないユーリは、起きて早々に休暇をもぎ取ってくると意気揚々と部屋を出て行った。
泣いたり笑ったりとすごく忙しかったユーリだけど、僕のことを好きになってくれてすごく嬉しい。
でも十年前から好きだったってことは、僕がユーリを拒絶しないでちゃんと会っていれば、すぐに誤解は解けていたはずで。
お互い五年もすれ違っていた原因は、全て僕にあるように思えたけど、ユーリは頑なに自分のせいだと言い続けた。
確かにあのとき、実はナポレオン兄様との婚約は嘘でした。って言われたら、それはそれでめちゃくちゃショックを受けていたと思う。
だから、五年も無駄にしたけど、これからの長い年月は、ユーリとまた昔のように和やかに過ごせたら良いな、と考えるようにした。
そして、次の日。
見事休みをもぎ取ってきたユーリとの朗読会で、彼が持ってきた本を目にして、僕はガチガチに固まっている。
だってこの本は、僕がユーリと百回目のキスの思い出に、と思っていたちょっとディープなキスをする内容の本なのだ。
「ヴィー? 読んだことあった?」
「っ…………な、ないよ。多分」
僕の返答にくすりと笑うユーリは、この本の内容を知っていて持ってきたのだろうか?
心の準備が全く出来ていない僕は、相変わらずの棒読みだ。
台詞の合間に無駄に紅茶を飲んで唇を潤わせている僕は、ユーリとのキスを意識しすぎている。
「ヴィー、好きだ」
「っ、ま、待って、待って、ユーリ!」
「ふふ、何? そんな台詞ないよ?」
とろけるような黄金色の瞳は、今はギラリと光って熱を孕んでいるように見えた。
慌てて立ち上がって逃げようとした僕は、一瞬でユーリに捕まった。
ユーリに手首を掴まれたままじりじりと後退る僕は、部屋の隅に追い詰められて、トンと壁に背中がぶつかった。
僕の顔の横に手をついたユーリは、僕の顎を掬ってにやりと口角をあげる。
その妖艶な笑みに、心臓がバクバクと激しく音を立てる。
「もう逃がさないよ」
「っ、ま、まだ、心の準備がっ…………んっ、」
唇が優しく触れ合って、すぐに啄むような口付けをされて、恥ずかしすぎてぎゅっと口を引き結ぶ。
「ヴィー、愛してるよ。俺の初恋の人」
「っ……ぁっ、……ユーリ、んんっ、」
台詞を言わなきゃと少し口を開くと、熱い舌が口内に差し込まれて、カッと目を見開いた。
すると黄金色の瞳は僕の顔を凝視しており、つり目を細めていた。
……すごく愛おしそうに。
僕の引っ込んでいた舌が絡めとられて、くちゅりと淫靡な音が鳴る。
さっきまで飲んでいた甘い紅茶の味が、口いっぱいに広がった。
やっぱりユーリの舌は甘かった。
そして、すごく美味しい。
変態なことを考えてしまい、たまらずユーリにしがみつくと、後頭部に大きな手が回り、さらに深く口付けられた。
「っ、んぁ……」
「可愛いよ、ヴィー」
「ふぁ、……っ、ゆーりぃ、」
「っっ…………ヴィーは、俺のものだ。誰にも渡さない」
口付けが激しさを増し、ざらりとした舌が歯列をなぞり、上顎をなぞる。
舌を吸われて、擦り合わされて、その度にゾクゾクとした快感に襲われて、もう僕の腰は砕けてしまった。
立っていられなくてずり落ちそうになる僕を、片手で易々と抱き込むユーリは口付けを止める気配はない。
舌を絡め合うキスってこんなに長かったの?
いきなり難易度が上がりすぎだよ……。
親指で頬をすりすりと撫でられて、その僅かな刺激すらも感じてしまう僕はやっぱり変態だ。
ようやく唇が離れて、一生懸命空気を吸い込む僕は、軽く酸欠になっている。
「はぁ…………ヴィーが可愛すぎる」
「っ、もう。ユーリのばかっ」
ついに僕の腰を砕けさせた色っぽいユーリを見上げて、むっと口を尖らすと、すぐさまチュッとリップ音を立てて軽くキスをされた。
「そんな可愛い顔しないで? もっとしたくなるから」
「っ、もう無理だよぉ~。恥ずかしすぎて死んじゃう……」
「ふふ、本当可愛い。俺の部屋に隔離したい。誰の目にも触れさせないように、ヴィーを鳥籠に囲ってしまおうか……」
至近距離で美しいお顔に見つめられて、恥ずかしい台詞を吐かれた僕は、かぁっと顔に熱が集まってしまう。
「ヴィー。もう一回」
「っ、だ、だめっ……」
「ん? 俺はいつも、ヴィーのおねだりを聞いていたんだけどな?」
「うっ…………ユーリの、意地悪っ」
「ごめんね? ヴィーのことが大好きすぎて、意地悪したくなっちゃう。こんな俺は嫌い?」
「…………どんなユーリも、好き、だよっ、ン」
結局、また深い口付けをされた僕は、体に力が入らなくて、ユーリに抱き込まれたまま口内を嬲られ続けた。
ユーリが満足するまで。
何度も何度も。
こうして僕は、大好きな初恋の人の恋人になったのだった。
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