100回目の口付けを

ぽんちゃん

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26 兄様のお友達

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 ユーリとナポレオン兄様が、朗読会をしていたことを知っていまった僕は、暫くの間、ユーリをお茶会に誘うことが出来なかった。

 誘っても来ないのに、万が一来てしまったらと思うと、怖くて仕方がなかった。

 だって、ユーリのことを責めてしまいそうだったから。

 二人は恋人同士じゃなかったとしても、僕以外とは朗読会をしないでってお願いしたのに。

 ユーリだって、僕にユーリ以外とは朗読会をしちゃいけないって言ったくせに。

 僕はその約束をちゃんと守っていたのに。

 五年も無視し続けたくせに、こんなことを考えてしまう僕は性格が悪すぎる。

 もうこの際、僕に告白してくれた誰かと、朗読会をしてやろうか。

「はぁ~~。僕ってなんて醜いのだろう」
「あの……」

 図書館に本を返しに行く途中、ぽつりと呟いた僕に、とても体格の良い美丈夫が声を掛けてきた。

「落としましたよ」
 
 落ち着いた群青色の髪の背の高い男性は、普段使っている僕の栞を手にしていた。

「あっ、僕の……。ありがとう」
「いえ。お初にお目にかかります、ヴィヴィアン殿下。私、ディーン・バルトロイと申します。学園ではナポレオン殿下の同級でした。一度ご挨拶したいと思っておりましたので、お会い出来て光栄です」
「そうだったんですね。ナポレオン兄様がいつもお世話になってます」
 
 ナポレオン兄様のお友達なら、特に丁寧に挨拶しておかないと。

 そう思ってにっこり微笑むと、流れるようにお話ししてくれたディーン様は、カチリと固まってしまった。

「バルトロイ様?」
「っ、すみませんっ、私のことはディーンと」
「あっ、はい。ディーン様、わざわざ栞を拾ってくださってありがとうございました」

 ぺこりとお辞儀して図書館に向かおうとすると、ディーン様も図書館に行く予定だったらしく、少しだけお喋りしながら一緒に歩いた。

 魅惑的な雰囲気の彼はお喋りも上手で、僕が答えられないような質問には、さらりと違う話に変えてくれたりと、とてもモテそうな感じだ。

 図書館に着き、僕が恋愛小説のブースをちらちらと見ていると、自分は違うところに借りたい本があるからと、僕が恥ずかしがっていることに気づいてくれたのか、離れてくれるという優しさ。

 やっぱり彼は出来るモテ男だ。

 小説に出てくるような王子様みたいだな、と思いながら、新刊を何冊か手にして部屋に戻ろうとすると、重いので持ちますよと声を掛けてくれる。

 確かに僕はひ弱そうに見えるけど、三冊くらい持てるんだけどな?

 でもわざわざ声を掛けてくれたんだしと、優しく光る群青色の瞳の彼の優しさに甘えることにした。


 それからというもの、図書館でディーン様と会うことが増えて、その度に少しお話しするようになった。

 穏やかな口調の彼は、一緒に居てすごく落ち着くし、話しやすくてあっという間に仲良しになった。

 そして、ユーリと仲直りしたい僕は、怒らせた相手に許しを乞うにはどうしたら良いか相談してみることにした。

「そうですね。私でしたら、誠心誠意謝ります」
「でも、お茶会に誘っても来てくれないから、顔を見ることすら出来ていなくて。もう四ヶ月経つんですけど、僕はもっと長い期間彼を避けていたから……」
「……そうでしたか」
「一度、彼の好きな甘味を作って待ってたんですけど、結局来てくれなくて全部ナポレオン兄様が食べてくれました。僕も兄様みたいにかっこよかったら良かったのに……」


 ――ナポレオン兄様になりたい。

 
 気付けば僕は、心の奥底で思っていたことをぽつりと口にしていた。

 だってそしたら、ユーリに好きになってもらえるから。

「でしたら、もう一度、その方の好物を作って、相手に直接渡してみるのはいかがですか?」
「……職場に行けばいいってこと? 迷惑じゃないですか?」
「周囲に人が居れば、無視できませんからね」

 にやり、と悪戯っぽい笑みを浮かべたディーン様に、僕は驚いて目を丸くする。

「そっか、その手があったか。僕、これでも一応王子だし、無視できない……。あっ、すごく性格が悪いこと言っちゃった」
「そんなことないですよ、ヴィヴィアン殿下は優しすぎると思います」

 大きな手が、本を持つ僕の手に触れて、ビクッと体を震わせてしまった。

「あっ、ご、ごめんなさいっ……」
「いえ……私も急に、申し訳ありませんでした。少しでも慰めたくて……」
「ふふ、本当に優しいですね、ディーン様は。僕、もう一度お菓子を作って、謝りに行ってきます! アドバイスありがとうございました」

 申し訳なさそうにしていた美丈夫が、穏やかな笑みを見せてくれて、ほっとして息を吐く。

 思い立ったが吉日。
 
 さっそく明日、ユーリに会いに行こうと決めた僕は、またパウンドケーキを作るために、料理人さん達にお願いしていた。

















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