100回目の口付けを

ぽんちゃん

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22 学園にて ユーリ

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 十三の歳を迎えた俺は、学園に入学し、ヴィヴィアンとは毎日会えなくなってしまった。

 だが、毎日ヴィヴィアンのことを考えている。
 会えなくなって、余計にヴィヴィアンへの気持ちが募るばかりだ。

 俺の世界では、ヴィヴィアンへの愛という名の雪が、ひたすら降り続けている。

 もう、足の爪先から頭のてっぺんまで、愛の結晶が積もりに積もっている。

 そんなイカれたことを考えている俺は、ヴィヴィアンの隣に並んでも恥じない男になるために、苦手な勉学にも力を注いだ。

 ペンより剣を握っていた俺は、入学した当初の筆記試験では学園内で真ん中くらいの位置にいたが、今ではトップ三に名前が上がるようになっている。

 ちなみに剣術は、誰にも負けたことがない。
 圧倒的一位だ。

 そして周囲からの推薦により、生徒会にも入ることになった。

 今までは第二王子のナポレオンが周囲からの羨望の眼差しを一身に受けていたが、今では俺の方が人気がある気がする。

 ナポレオンと二人でいると、学園内の人間からキャーキャー言われて煩くて仕方がない。

 俺がキャーキャー言われたいのは、ヴィヴィアンのみ。
 そう思って冷たく接しているからか、影では『氷の王子様』と呼ばれるらしい。

 そんな彼らに一言言いたい。
 俺は氷の王子様ではなく、白銀の天使の王子様なんだよ?

 まぁ、ヴィヴィアンの存在は誰にも教えてやる気はないがな。

 
 そんなある日。

 最近巷で流行っている恋愛小説の話題で盛り上がるクラスメイト達に、俺の耳はピクリと反応する。

「啄むような口付けってなんだ?!」
「何度もちゅっちゅすることじゃ?」
「やだぁ~、めちゃくちゃ萌えるぅ~!」
「しかもさ、シャイなヒロインが『もっとして』っておねだりするシーンがたまらないよねぇ!」
「……ねぇ、その本。面白そうだね」

 自ら話しかけることのない俺が、クラスメイトに話しかけたことにより、教室内がシーンと静まり返る。

「っ……グレンジャー様も、読書がお好きなんですか?」
「ああ。学園に入学する前は毎日読んでた」
「すごく意外ですっ」
「普段はファンタジーばかり読んでいたが、たまには違うものを読んでみたくてね? 良ければお勧めの本を教えてもらえないだろうか」

 そう言って、彼らが手にしている恋愛小説に目を向ける。

 ファンタジーじゃなくラブストーリーばかり読んでいる俺は、真顔で嘘を吐く。

「っ、こここ、この本は、人気なんですけど、グレンジャー様のお眼鏡に叶うかどうか……」
「いや、試しに読んでみようかな」
「で、でも、その……」
 
 どう考えても俺が読みそうにないと判断しているのか、クラスメイト達は顔を見合わせている。
 
 だが安心してくれ。
 剣術馬鹿の俺は、好きな子とキスがしたくて、ラブストーリーしか読まない変態だ。

「君達がお勧めする本なら間違い無いだろう。良ければ貸してもらえないか?」
「っ! 喜んで!」

 我先にと手にしている本を差し出してくるクラスメイトに、一冊で良いからと苦笑いする。

 リーダー格の子に本を借りた俺は、ヴィヴィアンに「もっとして」とキスのおねだりをされることを想像して、とびっきりの笑顔で「ありがとう」と告げた。

 なぜかクラスメイト達が叫び声を上げていたが、俺は相当やばい顔をしていたらしい。
 
 変態がバレる前に席に戻った俺は、家でじっくり読もうと本を鞄にしまう。
 ここで読んだら、妄想して発狂しそうだからな。

 借りた恋愛小説をいたく気に入った俺は、すぐに取り寄せて、クラスメイトには面白かったと笑顔で告げて本を返却する。

 それからというもの、クラスメイト達がお勧めの本をたくさん貸してくれるようになった。

 おかげでヴィヴィアンとの朗読会で読む本のストックが、溜まりに溜まっている。

 友人も増えて、実は俺が怖い奴じゃなくて、人見知りで口下手なことに気づいた彼らは、さらに俺を慕ってくれるようになった。

 全てがマイエンジェルのおかげだ。
 
 

















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