100回目の口付けを

ぽんちゃん

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21 ラブストーリーに ユーリ

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 そして次の日。

 昨日迎えたはずの幸せの絶頂は、限界点を突破する。
 
 ヴィヴィアンの部屋の本棚にある本が、総入れ替えされていた。

 ほぼ、ラブストーリーに。

 冒険の本が三冊置いてあるが、一番下の段の右端。二人で朗読会をするソファーから一番離れた場所にある。

 要するに、キスをしたいけど、それを俺に知られることが恥ずかしいから、あの三冊でカモフラージュしているつもりなのだろう。

 俺は、これ以上無いほどヴィヴィアンに夢中なのに、こんな可愛いことをして俺を一体どうするつもりなんだ?
 
 気が狂ってしまいそうだ。
 そんなことを思いながら、チャーリーが持っていた本と同じ本が目に止まる。

 これは確か、お姫様からキスする話だ。
 ヴィヴィアンからキスされるなんて最高すぎる、とすぐさま手に取った俺は、しれっと他の本も手に取って席に戻る。

 先に王子様からキスをする本を読んだ俺は、次はヴィヴィアンからキスをしてくれる本をすぐさま手に取る。

 さて読もうと、鼻歌を歌い出しそうなほどご機嫌な俺が本を開こうとすると、逆に俯くヴィヴィアンは口をむっと突き出していた。

 興奮しすぎた俺は「もう一回」と言おうとしていたであろうヴィヴィアンを、無視してしまった。

 あー、もう、本当に何をやってるんだか!

 ヴィヴィアンを幸せにするためにしているのに、結局自分のことばかり考えている俺は、情けなくて仕方がない。

 でもヴィー、安心してくれ!
 次もキスは出来るから!
 だからそんなに落ち込んだ声で台詞を読まないでくれ!

 そしてぽけっとしているヴィヴィアンは、キスシーンが来てもただ鍵かっこの中の文字を呼んでいるだけで、内容が右から左みたいだ。

「お姫様が、王子様に抱きついてキ、ス、……」
 
 唇を噛み締めて上目遣いをするヴィヴィアンは、俺の膝の上に手を置いて、もじもじとする。

 ヴィヴィアンにそのつもりはないだろうが、まるで誘われているかのような行動に、下半身が熱くなる。

 こんなヴィーを決して誰にも見せてはいけない。
 必ず守らなければ。と固く誓っていると、ヴィヴィアンが俺に勢い良く抱きついてキスをする。

 っ、は……やばい。至高の時間だ。 

「ご、ごめん、ユーリ。痛かったよね……」
「……そうだね。だからもう一回やり直そうか」

 全然痛くない、むしろ嬉すぎてもう一度して欲しい俺は、両手を広げて天使を待つ。

 そして次は、すごく慎重に抱きしめて、優しくキスをしてくれた。
 
 天使のキス顔をガン見してしまったことは許して欲しい。
 長くてふさふさの白銀の睫毛がすごく綺麗だ。
 
「ヴィー、朗読は私以外とはしないようにね?」
「ユーリもね?」
「ああ、約束する」
「弟もだめだよ?」
「ふふ、……わかった」

 弟もダメだと言う心底可愛いヴィヴィアンは、きっと俺と同じ気持ちになってくれたんだと思う。

 俺みたいな仏頂面で、気の利いたことも言えない、ヴィヴィアンにしか優しくする気のない性格の捻くれた奴を好いてくれる天使は、やっぱりすっっっっごく良い子だ。

 白銀の髪に指を通して優しく梳かすと、ヴィヴィアンは目を細めてすごく幸せそうな顔をする。

 この綺麗な髪を愛でて良いのは、俺だけだ。

 必ず幸せにするよ、と願いを込めて、俺は大好きな子の長い髪を撫で続けるのだった。




 そして俺は、ヴィヴィアンを守る最強の騎士になるために、今まで以上に剣の稽古に力を入れた。

 努力しているところを見られて揶揄われたくなかった俺は、普段は適当に流していたのだが、人前でも我武者羅になって努力していた。

 それが功を奏して、周囲からは「天才なのに、あれだけ努力をするなんて素晴らしい!」と評価されることになる。

 そんな俺に感化された騎士志望の友人達も、より一層稽古に励むことになり、父からは「良いお手本になっている」と胸を張って褒められた。

 父に褒められたことなんて、ただの一度もなかったのに。

 天使のおかげで、俺の人生がうまくいきすぎている。

 やはりヴィヴィアンは俺の女神、運命の相手だ!

 ラブストーリーばかり読みすぎて、ロマンチストになっている気がするが、ヴィヴィアンの為ならキモいナルシストになろうが一向にかまわない。

 だって、俺の世界の中心は、ヴィヴィアンただ一人なんだから。

 おっと。
 またしても、小っ恥ずかしいことを脳内で宣ってしまった。

 俺がこんなバカみたいなことを考えているなんて知れたら、ヴィヴィアンに幻滅されるな。

 だが、言わせてくれ。

「俺は天使を守る最強の騎士になるのだ! ふははははははは!」
「ついに気が狂ったな」
「顔も言動も怖ェよ……」

 騎士志望の友人達のドン引きする声を聞きながら、俺は満面の笑みで木刀を振り回していた。


















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