19 / 65
19 性格が良すぎる天使 ユーリ
しおりを挟む俺がヴィヴィアンを好きになるまでに、そう時間はかからなかった。
元々一目惚れのようなものだし、なにせ性格がピュアすぎるんだ。
よくヴィヴィアンが熱っぽくなるときに、俺の手を額に当ててあげるのだが、そのときに俺の掌にある血豆に触れて「良い手だね」って褒めるんだ。
「ヴィーの方がもちもちだし綺麗だよ。すごく羨ましい」
「それは何の努力もしていないから。ユーリの手は、努力ができる人の手だよ。僕は……大好きっ」
きゅるんとした瞳で見つめられて、こんな可愛いことを言われたら、もうたまらないだろう。
歓喜の雄叫びを上げそうになるのをよく堪えたと、自分を褒めたい。
そして、君は本当に六歳か? やはり本物の天使なんだな? とは言わずに飲み込んだ。
俺の努力を、唯一認めてくれた天使様だ。
それからふと気付いたが、朗読会の時のお菓子がパウンドケーキばかりが出るようになった。
甘いものが大好きな俺に、父は将来騎士になるのだから甘い食べ物は必要ない、むしろ無駄な脂肪が増えるから、と家では禁止されている。
だが腹の立つことに、弟は普通に食べている。
苛立つ俺に見かねた母が、こっそりパウンドケーキを焼いてくれて、その気持ちが嬉しくて今でも大好物だ。
もしかしたら、ヴィヴィアンは俺がパウンドケーキが好きだと気づいて、使用人にお願いしてくれたのかもしれない。
もしそうなら嬉しいと、少しだけ泣き言を言ってみる。
「父親に、私だけ甘い物を禁止されているんだ。弟は食べて良いのに、騎士になる予定の私には厳しい」
「そうなんだ……。本当は食べちゃダメなの?」
「いや、他の騎士達は普通に食べてるし、適度な量なら大丈夫だよ」
危ない、せっかく用意してくれたであろうヴィヴィアンを悲しませてしまいそうになった。
少し申し訳なさそうにしていたヴィヴィアンは、俺の頬を小さなふわふわの両手で包み込んだ。
「お父様がユーリに厳しいなら、僕がユーリを甘やかすね」
にっこりと微笑み、可愛いえくぼを見せてくれたヴィヴィアンに、そのまま口付けそうになった。
涙腺が崩壊しそうなくらい感動した。
もう好き! 本当に好き! 大好きだ!
そして、俺の喉を心配してくれる優しい天使は、一緒に本を読むと提案してくれた。
「じゃあ、台詞のところをお願いしようかな」
「うん! 王子様の名前を……ユーリにしたい」
「っ……それはいいな。じゃあ、お姫様はヴィーにしよう」
立場上、王子はヴィヴィアンなのに、俺を王子様の名前で呼ぶ天使は最高に可愛すぎる。
恥ずかしがりながらも、こういう可愛いことを言うヴィヴィアンに、もうメロメロだ。
どうしよう、キスしたい……。
うちの両親は、良い歳して所構わずキスしまくる恥ずかしい二人なんだが、今は二人の気持ちがよーくわかる。
家に帰って本を読みながらぼーっとしていると、母が俺の隣に座ってにっこりと笑う。
ヴィヴィアンにキスしたい。
でも、ヴィヴィアンは性的な悪戯をされていたから、そういうことはしたくないと思う。
そのことを素直に相談してみると、母は笑顔で「キスしたら良いじゃない」と答える。
「でもっ、」
「ヴィヴィアン殿下のことが好きなのね?」
「っ…………はい。おかしいですよね、弟より歳下の子を好きだなんて。私もヴィーに悪戯した変態野郎と同じ……」
「あら。それは違うわ? 恋をするのに年齢なんて関係ないのよ?」
私だって、と幼い頃に好きだった従兄弟に「子供だからいいでしょ?」と言って、たくさんキスをしていたと暴露し始める。
「それに、話を聞いている限りでは、ヴィヴィアン殿下もユーリのことが気になっていると思うわ」
「……そうでしょうか」
「それを決定付けさせるためにも、キスは必要ね。気になる相手にキスされたら、ヴィヴィアン殿下も貴方にメロメロになるわよ?」
「っ、そんな理由でしたくない、です。これ以上、ヴィーを、傷つけたくない……」
「ふふ。融通が利かないというか、本当に真面目なんだから。……傷ついたヴィヴィアン殿下を、貴方の優しいキスで癒してあげるの」
俯いて考え込んでいた俺は、その言葉にハッとして顔を上げた。
「好きだよ、愛してるよ、って想いを込めて、優しく口付けるの。ほんの一瞬、触れるだけよ? そして、優しく抱きしめてあげて? 触れ合うことは怖いことじゃない、幸せな気持ちになることを、貴方が教えてあげるのよ」
心を込めて優しく触れ合うことで、ヴィヴィアンを幸せな気持ちにしてあげる。
正直言って驚いた。
いつも俺は、なるべくヴィヴィアンに触らないように気を配ってばかりいた。
でも母の言葉で、それは間違いだったのかもしれないと気付かされた。
母のことは普通に好きだったが、より尊敬した俺は心から感謝してお礼を告げた。
そして湯浴みを終えた父が戻ってくると、すぐに抱きついて、俺に見せつけるようにキスをする。
嫌がらせかよ、と思ったが、普段は厳しい表情の父がすごく嬉しそうに目を細めていたことに気づいたのだった。
49
お気に入りに追加
1,288
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。


美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる