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16 天使との出逢い ユーリ
しおりを挟むグレンジャー侯爵家嫡男の俺は、アルメリア国騎士団の団長を務める父に、幼い頃から鍛え上げられていた。
たまたま剣術の才能があったらしいが、剣が全ての父からすると、息子に剣の才能があることは当たり前のことで、父を越える存在になれと、口煩い。
熱血すぎる父に嫌気が差していたが、父が騎士団長という立場から、同い年の第二王子であるナポレオンと友人になった。
国王陛下と同じ、真っ赤な髪に漆黒色の瞳のナポレオンは、俺と同様に切れ長の目で、凛々しい容姿だが、気さくな性格だったこともあり、人見知りの激しい俺だがすぐに仲良くなる事ができた。
その頃からナポレオンの側近候補二人とも交流を深め、常に四人で行動していた。
俺は、父の後を継いで騎士団長になる未来が定められている。そのことが覆ることはない為、毎日死ぬ気で剣を振っている。
だが、周囲は「騎士団長の息子だから」「天才だから」「生まれ持っての才能があるから」と、その一言で俺の努力を誰も認めてはくれない。
あまりにも言われすぎて、それが当たり前になっていた。
そんなある日。
いつも笑顔のナポレオンが、表情が抜け落ちて、死んでしまうのではないかと心配になるほど落ち込んでいた。
話を聞けば、彼の溺愛する身体の弱い弟が、家庭教師や庭師、使用人、そして医師にまでも性的な悪戯をさらていたことが発覚したそうだ。
さすがに詳しい内容までは話せないみたいだったが、憔悴するナポレオンの様子に、相当悲惨な行為だったらしいことだけはわかった。
当時俺達はまだ十歳で、三男のヴィヴィアンは六歳だ。そんな幼い子供に性的な悪戯をするだなんて考えられなかった俺は、心底気持ち悪いと思った。
なぜなら、俺にも七歳の弟がいる。
三つ下のチャーリーは、母親似で茶髪に同じ色の瞳の平凡な容姿だが、つり目は父親に似てヤンチャ小僧だ。
そんなチャーリーも同じ行為をされていたらと想像するだけで、卑猥なことをした大人達を剣で滅多刺しにしてやりたくなる。
それに、なによりナポレオンのことが心配だった俺達は、部屋に引きこもっているヴィヴィアンに会って友達になろうと提案する。
だが、確実に心に傷を負っているだろうから、体に触れることは禁止して、優しく接しようと話し合っていた。
そして、初めてヴィヴィアンに会った俺は、雷に打たれて、金縛りにあったようにその場で硬直してしまった。
真っ直ぐに伸びる白銀の髪の美しいことこの上なく、大きなアメジストの瞳は、本物の宝石をはめ込んでいるのではないかと思うほど、キラキラと輝いていた。
外に出ることがないからか、透き通るような真っ白い肌に、ぷにぷにの頬は薔薇のような色が差していた。
とにかく類稀なる美貌の持ち主。
六歳にしてこの容姿だと、大人になったらどうなるのだろうか。
これは……、確かに間違いが起こってもおかしくないかもしれない。
そんなことを思っているうちに、友人二人がヴィヴィアンの可憐な容姿にすっかりとメロメロになっており、「一緒に遊ぼう!」とベッドで寝ているヴィヴィアンに言い寄っていた。
「無理強いをするのはよくない」
思わず口に出してしまったが、大きな瞳を輝かせて俺のことを見つめるヴィヴィアンに、心臓がバクバクと激しく音を立てる。
もしかして、ヴィヴィアンは困っていたけど言い出せなかったのだろうか。
兄が友人を連れて訪ねて来てくれたことは嬉しかっただろうが、いきなり外で遊ぼうと言われて、断ることが出来なかったのかもしれない。
まだ六歳なのに相手のことを思いやり、空気を読むことのできるヴィヴィアンは、わがままで生意気な弟のチャーリーとは全然違う。
ヴィヴィアンと仲良くなりたかったが、友人二人がかまいすぎているし、なにせ俺は人見知りで顔も仏頂面だ。
ヴィヴィアンを怖がらせたくない気持ちが前面に出てしまい、結局何も会話することが出来なかった俺だが、元々病弱だと知っていたから、あまり長居をするのも良くないと、みんなに声を掛ける。
友人ニ人はもっとお喋りしかったらしく、不貞腐れた顔をしていたが、ヴィヴィアンだけは俺のことをじっと見つめていた。
どうしよう、可愛すぎる……。
つり目で雄々しいグレンジャー家の人間と真逆のヴィヴィアンは、天使すぎて俺の顔が強張る。
それからヴィヴィアンに別れを告げて部屋を退出した俺達は、ひたすら可愛いを連呼していた。
そして、一言で良いから話したかったと後悔する俺に、笑顔のナポレオンがこっそり「ありがとな」と声を掛けてきた。
「なにが? 全然喋れなかったし、仏頂面だったから、ヴィヴィアンを怖がらせたかも……」
「いや。多分ヴィーは喜んでた」
「一言も会話してないのに?」
「くくっ。まあ、次も今の感じで頼むよ」
ナポレオンの言っている「今の感じ」が全くわからないのだが、俺は頷いていた。
一言も話せなくても、ヴィヴィアンに会いたい気持ちが勝っていた。
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