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12 噂って怖い
しおりを挟むそして僕は、ユーリへの想いを断つために髪をバッサリと切った――。
うん、バッサリは言い過ぎた。
本当は短髪にしたかったんだけど、家族全員に全力で止められた。
腰まで真っ直ぐに伸びていた白銀の髪は、肩甲骨辺りまでの長さになり、もう僕の髪を梳かす人がいないんだから、片方に纏めて編み込んでいる。
おかげで髪が乾くのも速いし、読書もしやすい。
そして、母様に切ってもらった髪をライオネルにプレゼントしたら、泣きながら喜んでいた。
僕の髪に価値なんてないのに、ライオネルはよっぽど白銀の髪が欲しかったみたいだ。
だけど、困ったことがある。
髪を切ったことにより、元々幼く見えていた僕が、さらに可愛く見えているらしく、今まで近づいて来なかった学園の生徒たちに、告白される機会が増えた。
僕と話したこともないのに、好きだと告白してくる人達の気持ちがよくわからない。
それは丁寧にお断りしているんだけど、そのせいで、よりライオネルへの虐めが悪化した。
見かねた僕が庇ったことによって、ライオネルが僕の恋人だと噂されるようになってしまった。
ライオネルは親友だし、彼も僕のことを慕っているわけではないと思う。
長く一緒にいるけど、そんなこと言われたこともないしね?
結局、僕が一緒にいればライオネルがいじめられることはないのだからと、常に行動を共にしていたけど、余計に噂は広がっていく。
そして、今ではライオネルは、僕の婚約者という立ち位置になっているらしい。
……噂って怖い。
そんな噂を気にすることなく学園生活を楽しんだ僕は、学園を卒業して十六歳になり、そろそろ婚約者を決めなければならないと父様に話をされた。
僕は兄様二人と違って出来損ないだし、僕自身に価値はないのだけど、縁談話は以前からたくさん舞い込んでいるらしい。
僕はユーリ以外なら、誰だっていいのだけど。
縁談相手の経歴や姿絵の載っている冊子に目を通している僕は、趣味は読書、好きな食べ物は甘いもの、剣術が得意な努力家、そんな人を無意識のうちに探していた。
結局、未だにユーリに囚われている――。
気分転換しようと部屋を出ると、使用人たちの噂話が聞こえてきた。
「ナポレオン殿下が、隣国の第二王子と婚約したんでしょう?」
「相手がナポレオン殿下に一目惚れしたらしいけど、殿下もまんざらでもなかったみたいだしね!」
「お似合いだわ! 本当おめでたいわね!」
「……その話、本当?」
思わず声をかけてしまった僕に、使用人達が驚きつつも笑顔で頷いていた。
なんで? じゃあ、ユーリは?
ユーリはどうなったの?
ユーリはナポレオン兄様のことが好きで、婚約者になったんじゃなかったの?
二人はいつも一緒にいたのに。
ユーリは……兄様に捨てられたの?
とにかく、ナポレオン兄様本人に話を聞きたい。
そこまで考えた僕は、知らぬ間に走り出していた――。
兄様の部屋の近くまで来ると、息を切らす僕の目の前に、初恋の相手と、彼の父親が険悪な雰囲気で向かい合っていた。
ユーリの父である、ユリウス・グレンジャー侯爵閣下はアルメリア騎士団の団長を務めている。
背の高いユーリよりも一回りは大きな体格の彼は、そこにいるだけで威圧感が半端ない。
その鋭い眼光は、ユーリにも受け継がれているってわけだ。
僕に気づいた騎士団長は、「これはこれは、ヴィヴィアン殿下」と、ニカッと白い歯を見せて笑いかけてくれる。
日に焼けた肌の彼もまた、美しい金髪だ。
首が痛くなるほど見上げていた僕は、短く刈りそろえてある金髪をしげしげと見つめていた。
「ヴィヴィアン殿下? 私の顔に何か?」
「っ、あ、いえ……。綺麗な髪だなあと」
目を丸くした騎士団長は、ニカッと笑いながら僕の髪をわしゃわしゃとかき混ぜた。
反射的にビクッと体を震わせた僕に、慌てて手を離した罰の悪い顔をした騎士団長は、気まずげに頬を掻いて謝罪する。
そしてユーリは僕の方を一切見ることもなく、相変わらず鋭い目つきで父親を睨み付けていた。
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