100回目の口付けを

ぽんちゃん

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10 新しい友達

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 ユーリと顔を合わせることなく引きこもりになって過ごしていた僕は、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。

 そして二年の月日が経ち、当初通う予定のなかった学園にも通い始めて、友人も出来た。

 その中で一番仲が良いのは、読書好きで穏やかな性格のライオネル・サンダース侯爵子息。

 プライベートでは、ライ、ヴィヴィと愛称で呼び合うほど仲良くなっている。

 僕に気を遣ってくれる優しい彼は、悲しいかな、金色の髪に黄金色の瞳なんだ。
 
 そう、大好きだったユーリと同じ。

 ……うん。語弊がある。
 大好きだったではなく、今でも大好きだ。
 
 そんな女々しい僕は、ライオネルの金色の髪に触れて、黄金色の瞳を見つめる。

 似ているようで全然違う。

 親友に対して、本当に失礼なことを考えている僕は、相変わらずの屑野郎だ。

「っ、ヴィヴィアン様……」

 頬を赤らめるライオネルに、ハッとしてすぐに手を離した僕は、学園内の人目がある場所ということをすっかり失念していた。

 ライオネルは侯爵家出身なのに、優しい性格だからか他の生徒達に虐めのようなことをされている。

 ……その原因は、僕にある。

 屑といえど、王子である僕と縁を結びたい人がたくさんいる中で、ライオネルと特別仲良くしているからやっかまれているらしい。

 教科書を破られたり、靴を隠されたり、この前なんかは噴水に突き落とされたらしく、びしょ濡れになって震えていた。

「ごめんね、ライオネル……」
「いえ、ヴィヴィアン様のせいではありませんから……」

 そう言って、黄金色の瞳にじわりと涙が滲む。

 辛い境遇にいるのに僕と行動を共にしてくれるライオネルのことは、絶対に守ってあげたいと思う。

「学園じゃ碌に話もできないし、今度家に遊びに来てよ」
「っ、宜しいのですか?」
「当たり前でしょ? ライオネルは僕の親友なんだから」

 彼を安心させたくてにっこりと微笑むと、嬉しそうに頬を緩ませたライオネルは、こくりと可愛らしく頷いた。



 

 そして、次の休日。

 僕はライオネルと庭園内で、読書をしながらお茶をしていた。

 一冊読み終えたところで顔を上げると、黄金色の瞳は僕のことを見つめていた。

「ライ? もう読み終わってたの?」
「……はい。ヴィヴィの髪はすごく綺麗ですね。まるで天使みたいです」
「ふふっ、それは褒めすぎだよ。僕は、ライの金色の髪も、黄金色の瞳も……大好きなんだよ」

 ユーリを思い出して、少しだけ悲しみの滲む声色で話してしまったけど、ライオネルは僕なんかに褒められてすごく嬉しそうだ。

 読書をするときに邪魔で、耳にかけていた白銀の髪が、風になびいてハラリと零れ落ちる。

 ユーリが長い髪が好きだったから伸ばしたままだったけど、未だに胸の中に燻る想いを断ち切るためにも、もう切ってしまいたい。

 至極めんどくさそうに髪を触る僕に、ライオネルが静かに歩み寄って、僕の耳に髪をかけ直そうとして、サッと手を引っ込めた。

 そして、宜しければ、と彼の持っていた黄金色のバレッタを手渡してくれた。

「いいの? これはライのでしょう?」
「ええ。私は他にも持っていますし、ヴィヴィがつけてくれたら、すごく嬉しいです。親友、ですから……」

 囁くように告げたライオネルに、ふわりと笑った僕は、つけてくれる? とお願いした。

「っ、触れても……宜しいですか?」
「うん。ここには、ライを虐める人はいないから大丈夫だよ。安心して」

 戸惑いつつも僕の髪に手を伸ばしたライオネル。
 
 髪をやりやすいようにと少し俯き気味でいた僕は、ライオネルがいつまで経っても髪に触る気配がないので、どうしたのかと尋ねようとゆっくりと顔を上げた。


 そして、目を見開く。


 眩しいくらいに光り輝く金色の髪の美青年が、鋭い目つきでライオネルの手首を掴んでいた――。

 二年ぶりに見た僕の初恋の人は、以前にも増して美しく成長している。
 
 暫く呆然としていたけど、彼の背後に赤髪の美青年が困った顔をしている姿が見えて、なんだかガッカリとした気持ちになる。

「手を離してください。彼は僕の大切な人です。彼を傷つけることは許しません」
「っ、ヴィヴィ……」
 
 掴まれていた手首が痛かったのか、顔を顰めていたライオネルは、感動したように僕の名前を呼ぶ。

 一方、僕の声が聞こえているはずのユーリは、一切僕の方を見ずにライオネルの手首を掴んだまま微動だにしない。

 そこへ見かねたナポレオン兄様がユーリの手に触れて、その手はゆっくりと離れていく。

 ……なるほど。
 もう僕のお願い事は聞く気がないらしい。

「ライ、行こう」
 
 すっと立ち上がった僕は、ライの手を引いて二人の前から姿を消す。

 結局、二年ぶりに会ったというのに、煌めく黄金色の瞳と視線が交わることはなかった。















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