100回目の口付けを

ぽんちゃん

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7 浅ましい気持ち

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 それからというもの、毎度朗読会でユーリとキスがしたい僕は、図書館に通いつめて、キスの場面があるハッピーエンドの物語の本ばかりを用意することになる。

 ユーリに浅ましい気持ちがバレたくないから、何冊かは冒険の本も置いている。

 ……めちゃくちゃ隅っこに。

「今日はこの本にしようか、ヴィー」
「うんっ!」

 ユーリが選んだ本は、キスの場面がある物語だったから、僕は思わず元気良すぎる声で返事をする。

 切れ長の目を丸くするユーリに、ハッとして「読んだことなかったから……」と付け加える僕は、多分お馬鹿丸出しだ。

 そして五度目のキスをしてもらった僕は、嬉しすぎて口許がにまにまとしてしまう。

 でもユーリは、いつも通り本を閉じて、さらっと次の本を用意する。

 やっぱりユーリにとってのキスは、弟とするような軽いものなのだろう。

 そう思うと、病気が治ったはずなのに胸が苦しくなる。

 ぽけっとしながら次の本を朗読していると、ユーリが俯く僕の顔を覗き込む。

 弧を描く薄い唇に、綺麗な指先がトントン、と触れる。

 ……どういう意味だろう?

 よくわからずに首を傾げていると、唇に触れていたユーリの指先は本の内容をつーっとなぞる。

「お姫様が、王子様に抱きついてキ、ス、……」
 
 途中まで読んで、口をはくはくさせる僕は、やっぱり頭が悪すぎる。

 熱が40℃を軽く超えた僕は、唇を噛み締めてかっこいいつり目の王子様を見上げた。

 二人でいる時はいつも柔らかな表情のユーリが、僕の顔を見て眉間に皺が寄る。

 ……僕がトロいから、怒らせてしまったんだ!

 大好きな人に嫌われたくない僕は、慌ててユーリに抱きついてキスをした。

 ……勢いがよすぎて、ちょっと痛かったかも。

 そう思ってユーリの顔色を伺うと、案の定、大きな手は口許に当てられていた。

「ご、ごめん、ユーリ。痛かったよね……?」
「……そうだね。だからもう一回やり直そうか」

 あわあわしている僕に、ふっと笑ったユーリは、両手を広げて待っている。

 まさか、もう一回やり直すなんて言われるとは思わなかった僕は、嬉しいやら恥ずかしいやらで、とにかく挙動不審だ。

 それから意を決した僕は、今度はユーリを傷つけないように、そうっと抱きしめて、優しくキスをした――。

 少し長めにキスをしてしまったことは、許してほしい……。

 だって大好きなんだもん。

 心の中で言い訳をする僕は、本の内容にないのに、ユーリにぎゅっと抱きついて胸元に火照る顔を埋める。

 爽やかな香りに包まれて、胸いっぱいにユーリの匂いを吸い込んだ。

 僕って、もしかしたら変態なのかもしれない。

 いや、違う。
 僕にいたずらしていた人達とは違うんだ。

 そう思いながらぐりぐりと頭を振っていると、ユーリの腕が僕の背に回って強く抱きしめてくれた。

 すごく心地良くて胸がぽかぽかと温かくなる。
 
「ヴィー、朗読は私以外とはしないようにね?」
「……ぅん」

 ユーリ以外となんてありえない。
 なんでそんな当たり前のことを聞くんだか。

 ユーリは賢いのに、意外と抜けているところがあるな。

 そんなところも可愛いなあと思いながら顔を上げた僕は、にっこりと微笑んだ。

「ユーリもね?」
「ああ、約束する」
「弟もだめだよ?」
「ふふ、……わかった」

 白銀の髪に指を通して、何度も何度も優しく梳かすユーリは、僕の長い髪が好きみたいだ。

 うん、死ぬまで絶対切らないでおこう。

 














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