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6 朗読会
しおりを挟むそれから僕はユーリとばかり遊ぶようになった。
ナポレオン兄様は剣の才能があり、基本的に外で遊ぶことが大好きだ。
ユーリはというと、体を動かすことより本を読んだりすることの方が好きらしい。
だがしかし。
彼の家は剣の名家で、ユーリもまた剣の才能があることを僕は知っている。
そして、周囲からは、剣を手にして産まれて来たんじゃないかと言われるくらいの天才だと、もっぱらの噂だということも――。
でもユーリの手には、沢山の血豆があって、綺麗な顔には似合わないほどゴツゴツしている。
努力せずとも才能があると思われているけど、本当はすごく努力家だってことに僕は気づいている。
兄様をも凌ぐ実力があるのに、いつも僕と一緒に居てくれるユーリの優しさに、惹かれずにはいられない――。
そして、今日も僕に本を読んでくれるユーリに、一人で読むと疲れるから、僕も一緒に朗読すると提案した。
今日の本は、攫われたお姫様を素敵な王子様が助けに来る物語。
ユーリが王子様の台詞を読み、僕がお姫様の台詞を読む。
名前もユーリとヴィーに変更する徹底っぷりだ。
二人で朗読して、和やかな時間を過ごすことが、今の僕の一番の癒しの時間だった――。
「愛してる。必ず幸せにするよ、ヴィー」
そう言って、僕にそっと口付けたユーリに、幸せな時間が停止する。
「ヴィー? 次、ヴィーの番だよ」
「ひぇっ?! あ、う、うん……。ぼ、僕も、あ、愛してる…………ユーリ」
そしてユーリが僕を優しく優しく抱きしめて、蕩けるような笑顔を見せる。
「ハッピーエンドだったな」
「っ、う、うんっ」
パタリと本を閉じたユーリの行動は、筋書き通りで、特別な意味はなかったと思う。
それでも、気になっている相手にキスをされて、愛してると告げられた僕は、頭が沸騰して、多分高熱が出た。
そして元々お馬鹿な頭がさらにおかしくなった。
「ユ、ユーリ……。もう一回、読みたい……」
いきなりだったし、少し唇が触れただけだったから、もっとユーリに触れたいと思った僕は、ぼそぼそと呟く。
普段は何冊も読むし、一度読んだものをまた読むなんてことはしない。
でも、もう一度だけユーリとキスがしたかった僕は、つい「もう一回」と、おねだりしていた。
自分の中の浅ましい気持ちが、ユーリにバレてしまっていないかとそわそわする僕に「いいよ」と優しく告げたユーリは、閉じていた本を開いた。
台詞を呟きながら、あぁ、どうしよう。もうすぐキスの場面だ、と思うと棒読みになってしまう。
僕の頭の中は、ユーリとキスをすることしか考えられなくなっていた――。
「愛してる。必ず幸せにするよ、ヴィー」
さっきは本ばかりみていた僕が、今は本から視線を外してじっと黄金色の瞳を見ていたことに気づいたのか、ユーリは一度くすっと笑って、優しく口付けてくれた。
キス待ちの顔をしていたかも、と恥ずかしくなる僕は、とにかく熱が下がる様子はない。
きっと40℃を超えている。
結局、二度目もよくわからないうちに終わってしまい、少しだけがっかりしていると、ユーリは違う本を持ってくる。
……もう一回読みたかったけど、さすがに三回も読むのはおかしいよね?
明らかにキスしたいのがバレバレだ。
ユーリも違う本を持ってくるってことは、もう僕とキスしたくないってことだよね?
ずーんと沈む僕は、ぼそぼそとやる気なく台詞を読んでいく。
「ヴィー、結婚しよう」
「ユーリ……んっ、」
口先だけを動かしていた僕は、本の内容が頭の中に入って来ていなかった。
そんな中、ユーリが僕に口付けて、再度思考が停止する。
「ヴィー。この本、つまらなかった?」
少し首を傾げるユーリは、片方の口角が上がっていて、ちょっとだけ悪そうな笑みを浮かべていた。
もしかして、キスの場面があることを分かってて選んだの?
いや、ユーリに限ってそんなわけないよね。
たまたま……。
「ヴィー?」
「あっ、お、面白かった。も、もう一回……」
またしてももう一回とおねだりする僕は、ユーリが好きすぎて仕方がない。
ユーリがどんな反応をしているか見ることが怖かった僕は、下を向いて膝の上に置いていた手を触ってもじもじとするのだった。
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