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3 着せ替え人形
しおりを挟むそして、いつも着替えを手伝ってくれていた使用人のエメル。
中年の優しい彼は、いつも僕の肌のケアをしてくれていた。
良い香りのする液体を全身に塗り込んでくれて、僕の肌はいつも艶々だった。
そんなある日、エメルは僕のために、最近巷で流行っているという、少し変わった衣装を用意してくれていた。
「私はヴィヴィアン様を可愛く着飾ることに命をかけています」
「そんなことで、エメルの大切な命をかけないでよ~」
くすりと笑う僕が身につけた、すけすけの黒のワンピースは太ももが丸出しだ。
それに膝上までのストッキングを履いて、落ちてこないようにガーターベルトというヒラヒラの可愛らしいものを装着する。
そして、頭にふわふわの黒猫の耳をつけた。
猫好きのエメルは「似合う似合う」と大喜びで、涙まで流していた。
もっと喜ばせたいと思った僕は、本物の猫のように、手を丸めてポーズをとる。
「ッ!!」
目を見開いたエメルは、僕を抱きしめて頬ずりしまくり、身体中を撫で回す。
「エメル、くすぐったいにゃあ~」
「グハッ……」
喜びすぎて鼻血を出したエメルは、鼻にティッシュを突っ込みながら、僕の肌が見えている部分を余すところなく舐めまくっていた。
僕を子猫だと思って毛繕いをし始めたエメルは、猫ごっこがしたかったらしい。
それから暇を見つければ、エメルの猫ごっこに付き合っていた。
そんなある日。
二番目の兄であるナポレオン兄様も猫好きだと知った僕は、猫耳ごっこのときの格好をしてを遊びに来る予定の兄様を待っていた。
「俺の可愛いヴィー! お兄様が来たよ!」
「なー兄様、待ってたにゃあ!」
「――……ッ!!!!」
切れ長の目を大きく見開いたナポレオン兄様。
すぐさま僕に駆け寄って、僕の体をシーツでぐるぐる巻きにした。
「なんて格好をしてるんだッ!」
「え? だって、なー兄様も猫が好きなんでしょう? だから今日は、猫ごっこしようと思って」
「…………猫ごっこ?」
「うん! だから、舐めていいよ!」
シーツを剥ぎ取った僕は、ガーターベルトを指でぺちんと鳴らした。
これをすると、エメルはすごく喜ぶんだ。
ナポレオン兄様も喜んでくれたのか、顔が髪色のように真っ赤に染まっていたけど、声にならない叫び声を上げていた。
燃え上がるような真っ赤な髪に黒曜石のような瞳のナポレオン兄様は、ライオンみたいだ。
もしかしたら、猫よりライオンが好きだったのかもしれない……。
その日は、ナポレオン兄様が僕と離れたくないと駄々をこねて、仕方がないので兄様のお部屋で一緒に寝てあげた。
そして次の日、新しい使用人がやってきた。
エメルは持病が悪化して、仕事を辞めてしまったみたいだ。
「エメル、大丈夫かな?」
「ヴィヴィアン様……」
「猫ごっこ、もっとしてあげたら良かった……」
病気になったエメルを心配しながらしょぼんとしていると、新しい使用人が泣きながら部屋を飛び出していった。
いきなりどうしたのかと思って追いかけると、部屋の前でへたりこんで泣いていた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「っ、は、はい…………すみません」
「元気出してにゃあ~」
エメルにしてもらっていたように、すりすりと頬ずりをすると、新しい使用人がパタリと後ろに倒れて、意識を失っていた。
結局その人も病気だったらしく、挨拶しただけですぐに辞めてしまい、また新しい使用人が三人も増えたのだった。
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