期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

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 何不自由のない優雅で贅沢な旅から三ヶ月が経過し、馬車十五台分の荷物と共に、ミゲルは目的地に到着していた――。

「ついたぞッ!!」

 待ちきれないとばかりに、ジェラルドがまだゆっくりと動いている馬車から飛びおりる。
 草木が生い茂る森の中を、黒髪を靡かせるジェラルドが駆け回り、奇声をあげていた――。

 呆然と突っ立っているミゲルは、なにが楽しいのかさっぱりわからない。
 なにせ、新居はで、王都にも負けないくらいのだと聞いていたのだ。

(楽園じゃなくて、ど田舎じゃないか……)

 三つ並ぶ建物を前にし、ミゲルは開いた口が塞がらなかった。
 ジェラルドの話していた新居は、病院と研究施設に挟まれており、確かに中心にある。
 だが、明らかに街とは言えない場所だった――。

「なあ、なにかの冗談だろ!? こんなところ、貴族が住むような場所じゃないっ!!」

「あん? なにごちゃごちゃ言ってるんだ? ここが俺たちのだろうがっ!!」

 フラヴィオの絵葉書をひとつ残らず買い占めた時と同じように、黒い瞳を爛々と輝かせるジェラルドは、嘘をついてはいなかった――。

「……っ、クソッ。騙したなっ!? 俺たちじゃなく、お前の楽園だろっ!! 僕は、明日にでも兄様を招待しようと思っていたのにっ!!」

「はあ? 招待したいなら、勝手にしたらいいだろ? まあ、立場上、フラヴィオ様が足を運んでくれる可能性は低いと思うがな?」

「っ、ふざけるなっ!! 僕は帰るっ!!」

 憤慨するミゲルは、大嫌いな男に背を向ける。
 別れの際に、フラヴィオと抱擁しなかったことが悔やまれる。
 結婚式とはいえ、他の男と口付けたところを愛する兄に見られたショックで、ミゲルはフラヴィオの顔を見ることすらできなかったのだ。

(まさか、こんなことになるなんて……。最後に、兄様に甘えておけばよかった……)

 近くの街まで連れて行けと、御者に命令するミゲルに、ジェラルドが待ったをかける。

「約束したよな? 俺の伴侶になるなら、大人しくしてろよって」

「っ、うるさいっ!! もう三ヶ月も兄様に会っていないんだぞ!? 僕は兄様に会えないと死んでしまう病なんだっ!!」

「…………お前、頭大丈夫? 診てやろうか?」

「~~~~ッ!!」

 ミゲルは真剣に話しているというのに、『ふむ。重度のブラコンだな』と、ジェラルドが真面目な顔で診断をくだす。
 馬鹿にされていると思うミゲルは、血管が切れそうになっていた。

 ミゲルがジェラルドと揉めている間に、荷を下ろした馬車が去って行く。
 そして白い外壁の巨大な建物からは「院長~!」と手を振る男たちが走ってきた。

「待たせたな。食糧をたんまりと買ってきたぞ」

 親しげに話しかけたジェラルドは、あっという間に人に囲まれる。
 正直、ミゲルは驚いていた。
 クレメントに似て目付きの悪いジェラルドは、どこへ行っても悪い意味で目立っていた。
 だが、今集まっている助手らしき人たちは、ジェラルドの容姿に怯えていない。

(しかも、レオーネ家で見たことのある者たちばかりじゃないかっ!)

 先客がいることにも驚いていたミゲルだが、その相手が知り合いだったことに絶句していた。

「ああ、よかったあ~。入院患者が増えたので、食材が残り僅かになってしまって……」

「私たちはスープでも生きて行けますが、患者には栄養のあるものをたべさせたくて……。狩りにでも行くべきかって、みんなで話し合っていたところだったんですよ!」

「今回は間に合いましたけど、今後なにかあった時のために、庭に畑を作りませんか?」

 レオーネ家に仕えていた時はだらけていた者たちが、今は別人のように生き生きと働いている。
 蚊帳の外に置かれるミゲルは、思考が追いつかない――。

 ジェラルドがミゲルを伴侶だと紹介する声を背に、ミゲルは屋敷に走っていた。
 慌てて荷から便箋を探し出し、フラヴィオ宛に手紙を書く。

(僕が助けてほしいと言えば、きっと兄様は駆けつけてくれるはずっ)


 大急ぎで手紙を出したミゲルだが、待てど暮らせど返事は来なかった――。


 新居からジラルディ邸まで三ヶ月かかる。
 つまり、フラヴィオがどれだけすぐに返事を出したとしても、ミゲルのもとに手紙が届くのは半年先だった。

 『お前の思うように過ごせ』と告げたジェラルドは、研究所にこもっている。
 ジェラルドの言いたいことはわかっているミゲルだが、仕事を手伝う気はさらさらなかった。

 

 そして半年後。
 ようやく、フラヴィオから手紙が届く。
 フラヴィオの身になにかあったのかと心配していたミゲルは、分厚い手紙を持つ手が震えていた。



 ――年に一度、会える日を楽しみにしている。



 待ちに待った手紙には、激励の言葉が綴られており、ミゲルへの愛に溢れたものだった。
















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