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しおりを挟む大盛り上がりだった茶会の後。
自室に戻ったフラヴィオは、巨大なソファーで愛する夫と密着し、苺を食べさせ合っていた――。
「この薔薇の苺も、きっと領民の間で流行りますね?」
「……どうだろうな? まあ、ヴィオが望むなら、職人にやり方を教えておこう」
領地も潤うだろうと、フラヴィオの肩を抱くクレメントが、優しい笑みを浮かべた。
クレメントがプレゼントしてくれた大粒の苺は、レオーネ家の元使用人たちが収穫したものだ。
フラヴィオが神官長に掛け合い、今では手の甲にあった罪人の焼印は、綺麗さっぱり消えている。
心を入れ替えた者たちは、それぞれ新しい道を歩み始めていた――。
そして、残る問題はミゲルだ。
絶縁したとはいえ、両親が牢に入ったこともあってか、ミゲルの伴侶がなかなか見つからない。
それに本人も一生独身でいいと話しているため、伴侶を探す気がまるでない。
フラヴィオは兄として、互いを高め合える伴侶がミゲルを支えてくれたらと思っている。
(あと、マルティンとも仲直りしてほしい)
今日の茶会のことをキャシーに聞いてみたが、ミゲルとのことは教えてはもらえなかった。
ただ、話せばフラヴィオのもとを去ることになってしまう、と。
マリカがこっそりと教えてくれた。
つまり、口止めしている人物がいる。
(その人は、私より身分が上……。シャール殿下か、もしくは……現在、私の口に苺を運んでいる夫だろう)
「くっ……。ヴィオ……」
考え事をしていたフラヴィオは、ごつごつとした指ごと苺を口に含んでいた。
「すみません、間違えてしまいました……。クレム様の指も、苺味だったから……」
「っ…………ぐはっ」
ハンカチで指先を拭い、瞳をギラつかせる夫に気付かないフラヴィオは、口止めしている人物は十中八九クレメントだろうと推測する。
(私にだけ秘密にしているということは、私が悲しむ内容なのだろう)
今日は結婚記念日だ。
無理やり聞き出す必要はないだろう。
ただ、ミゲルの伴侶に関してはクレメントの力を借りなければならない。
友人全員に断られてしまっているフラヴィオは、恥を忍んでクレメントに頼ることにした。
「あの、ミゲルのことなんですけど……」
「…………」
「あ、あれ……? クレム様?」
無言のクレメントが浴室に向かい、なぜかフラヴィオは湯に入れられた。
猫足のバスタブの縁に頭を乗せれば、髪に優しくお湯をかけてくれる。
(ミゲルが触れたところを、とても丁寧に洗っている気がするのだが……)
どんなに仕事が忙しくとも、クレメントはフラヴィオの身の回りのことをしてくれる。
愛する夫に宝物のように大切に扱われるフラヴィオは、こんなに幸せでいいのだろうかと不安になってしまうほど、毎日が充実していた――。
今日は普段より念入りに髪を洗ってもらい、金色の髪は艶々だ。
タオルでしっかりと乾かしてくれ、その髪に口付けを落とすクレメントは、少し怒った顔でフラヴィオを見ている。
(……ミゲルは弟なのだが)
なにかを言うわけではないが、クレメントはまるで嫉妬しているような表情だ。
じわじわと喜びが込み上げるフラヴィオは、むすっとする夫を愛おしげに見つめる。
「私の愛は、クレム様に全振りだというのに――」
「っ……」
カッと目を見開いたクレメントが赤面する。
『あまり可愛いことを言うな』と怒られてしまったが、優しく口を塞がれたフラヴィオは、愛する夫と蕩けるような一夜を過ごしていた――。
◇
それから夜会に出席するフラヴィオは、ミゲルのことを知っていそうな同級生たちに話しかけた。
しかし、フラヴィオには護衛が何人もついているため、誰も口を割らない。
ひとりになるために手水に行き、聞こえて来た会話にフラヴィオは耳を澄ませた。
「あいつ、本当最低な奴だよな? 清廉潔白なフラヴィオ様とはまるで正反対だ」
ミゲルの悪口が聞こえ、フラヴィオは眉を顰めた。
(……正反対? ミゲルは思いやりのあるいい子なんだが)
「ああ。あれだけ慕っている態度を見せているくせにな?」
「陰ではフラヴィオ様のデタラメな噂を放置していたんだから、本当は嫌いなんじゃないか?」
「っ……」
信じられない話に、フラヴィオは咄嗟に口元を押さえた。
「美しすぎる異母兄に嫉妬したんだろ」
「当主になりたい気持ちはわかるけどさ……。本当卑怯な奴だよな? フラヴィオ様がお可哀想だ」
(っ……ミゲルは、私を嫌っていたのか……?)
皆がミゲルに関して口を割らなかった理由を察したフラヴィオは、人の気配がなくなるまで呆然と突っ立っていた――。
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