115 / 129
113
しおりを挟む大盛り上がりだった茶会の後。
自室に戻ったフラヴィオは、巨大なソファーで愛する夫と密着し、苺を食べさせ合っていた――。
「この薔薇の苺も、きっと領民の間で流行りますね?」
「……どうだろうな? まあ、ヴィオが望むなら、職人にやり方を教えておこう」
領地も潤うだろうと、フラヴィオの肩を抱くクレメントが、優しい笑みを浮かべた。
クレメントがプレゼントしてくれた大粒の苺は、レオーネ家の元使用人たちが収穫したものだ。
フラヴィオが神官長に掛け合い、今では手の甲にあった罪人の焼印は、綺麗さっぱり消えている。
心を入れ替えた者たちは、それぞれ新しい道を歩み始めていた――。
そして、残る問題はミゲルだ。
絶縁したとはいえ、両親が牢に入ったこともあってか、ミゲルの伴侶がなかなか見つからない。
それに本人も一生独身でいいと話しているため、伴侶を探す気がまるでない。
フラヴィオは兄として、互いを高め合える伴侶がミゲルを支えてくれたらと思っている。
(あと、マルティンとも仲直りしてほしい)
今日の茶会のことをキャシーに聞いてみたが、ミゲルとのことは教えてはもらえなかった。
ただ、話せばフラヴィオのもとを去ることになってしまう、と。
マリカがこっそりと教えてくれた。
つまり、口止めしている人物がいる。
(その人は、私より身分が上……。シャール殿下か、もしくは……現在、私の口に苺を運んでいる夫だろう)
「くっ……。ヴィオ……」
考え事をしていたフラヴィオは、ごつごつとした指ごと苺を口に含んでいた。
「すみません、間違えてしまいました……。クレム様の指も、苺味だったから……」
「っ…………ぐはっ」
ハンカチで指先を拭い、瞳をギラつかせる夫に気付かないフラヴィオは、口止めしている人物は十中八九クレメントだろうと推測する。
(私にだけ秘密にしているということは、私が悲しむ内容なのだろう)
今日は結婚記念日だ。
無理やり聞き出す必要はないだろう。
ただ、ミゲルの伴侶に関してはクレメントの力を借りなければならない。
友人全員に断られてしまっているフラヴィオは、恥を忍んでクレメントに頼ることにした。
「あの、ミゲルのことなんですけど……」
「…………」
「あ、あれ……? クレム様?」
無言のクレメントが浴室に向かい、なぜかフラヴィオは湯に入れられた。
猫足のバスタブの縁に頭を乗せれば、髪に優しくお湯をかけてくれる。
(ミゲルが触れたところを、とても丁寧に洗っている気がするのだが……)
どんなに仕事が忙しくとも、クレメントはフラヴィオの身の回りのことをしてくれる。
愛する夫に宝物のように大切に扱われるフラヴィオは、こんなに幸せでいいのだろうかと不安になってしまうほど、毎日が充実していた――。
今日は普段より念入りに髪を洗ってもらい、金色の髪は艶々だ。
タオルでしっかりと乾かしてくれ、その髪に口付けを落とすクレメントは、少し怒った顔でフラヴィオを見ている。
(……ミゲルは弟なのだが)
なにかを言うわけではないが、クレメントはまるで嫉妬しているような表情だ。
じわじわと喜びが込み上げるフラヴィオは、むすっとする夫を愛おしげに見つめる。
「私の愛は、クレム様に全振りだというのに――」
「っ……」
カッと目を見開いたクレメントが赤面する。
『あまり可愛いことを言うな』と怒られてしまったが、優しく口を塞がれたフラヴィオは、愛する夫と蕩けるような一夜を過ごしていた――。
◇
それから夜会に出席するフラヴィオは、ミゲルのことを知っていそうな同級生たちに話しかけた。
しかし、フラヴィオには護衛が何人もついているため、誰も口を割らない。
ひとりになるために手水に行き、聞こえて来た会話にフラヴィオは耳を澄ませた。
「あいつ、本当最低な奴だよな? 清廉潔白なフラヴィオ様とはまるで正反対だ」
ミゲルの悪口が聞こえ、フラヴィオは眉を顰めた。
(……正反対? ミゲルは思いやりのあるいい子なんだが)
「ああ。あれだけ慕っている態度を見せているくせにな?」
「陰ではフラヴィオ様のデタラメな噂を放置していたんだから、本当は嫌いなんじゃないか?」
「っ……」
信じられない話に、フラヴィオは咄嗟に口元を押さえた。
「美しすぎる異母兄に嫉妬したんだろ」
「当主になりたい気持ちはわかるけどさ……。本当卑怯な奴だよな? フラヴィオ様がお可哀想だ」
(っ……ミゲルは、私を嫌っていたのか……?)
皆がミゲルに関して口を割らなかった理由を察したフラヴィオは、人の気配がなくなるまで呆然と突っ立っていた――。
227
お気に入りに追加
7,000
あなたにおすすめの小説
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
初恋の公爵様は僕を愛していない
上総啓
BL
伯爵令息であるセドリックはある日、帝国の英雄と呼ばれるヘルツ公爵が自身の初恋の相手であることに気が付いた。
しかし公爵は皇女との恋仲が噂されており、セドリックは初恋相手が発覚して早々失恋したと思い込んでしまう。
幼い頃に辺境の地で公爵と共に過ごした思い出を胸に、叶わぬ恋をひっそりと終わらせようとするが…そんなセドリックの元にヘルツ公爵から求婚状が届く。
もしや辺境でのことを覚えているのかと高揚するセドリックだったが、公爵は酷く冷たい態度でセドリックを覚えている様子は微塵も無い。
単なる政略結婚であることを自覚したセドリックは、恋心を伝えることなく封じることを決意した。
一方ヘルツ公爵は、初恋のセドリックをようやく手に入れたことに並々ならぬ喜びを抱いていて――?
愛の重い口下手攻め×病弱美人受け
※二人がただただすれ違っているだけの話
前中後編+攻め視点の四話完結です
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる