期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

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 穏やかな春の午後――。
 高位貴族の夫人たちが、英雄の後妻が初めて開いたお茶会に招かれていた。
 我が子を見守るような気持ちで参加したのだが、招待客は揃って感嘆のため息を漏らしていた。

 外壁は要塞のようなのだが、一歩足を踏み入れれば、女性なら誰でも憧れる世界観を再現したようなロマンチックな城だったのだ――。

 加えてクレメントが当主となって、十五年。
 初めて開かれた茶会である。
 ディーオ王国の高位貴族でも、ジラルディ公爵邸に招かれることは、とても名誉なことだった。

 そして、どこまでも広がる青い花畑の中心にある真っ白なガゼボでは、時の人が待っていた。
 戦場の鬼神に溺愛されている、美しき後妻。
 周囲の人々に対する感謝の気持ちを忘れないフラヴィオは、人に好かれやすい性格だ。

 夫のクレメントは男性陣から高く敬意を払われており、人を惹きつける魅力のあるフラヴィオは、英雄の後妻でなくとも、自然と人が集まってくる。
 カリスマ性のある夫夫だと、皆が思っていた――。



 高位貴族の夫人たちから高く評価されていることを知らないフラヴィオは、内心ドキドキしていた。
 ここ二ヶ月でリュシエンヌ夫人と交流を深め、様々な知識を吸収している。
 それでも、人生初のガーデンパーティーなのだ。

(初めは情報収集のためだと思っていたが、今は単純に皆さんに喜んでもらいたい……)

 そこへこの日の為に用意していた軽食が運ばれ、夫人たちは目を見開いた。

「っ……なんと見事なのでしょう」

「ええ。青い花畑も美しいですが、これほどまでに美しい花を見たのは、初めてですわっ!」

 夫人たちが口々に誉めているのは、フラヴィオが用意したフルーツサンドだ。
 ジラルディ公爵領で収穫された苺をふんだんに使用し、断面が花の形になっている。
 食べてしまうのが勿体無いと思うデザートは、クレメントと共に作った自信作だ。

「喜んでもらえて嬉しいです。甘さは控えめにしてありますので、食べやすいかと」

「まあ! そこまで考えてくださったの?」

「はい。ですが、私ひとりで考えたわけではありません。実は、夫にも手伝ってもらいました」

「「「っ……」」」

 まだまだひとりでは何も出来ないと謙遜し、照れたように微笑むフラヴィオの口から、衝撃の事実が告げられる。
 ぽかぽか陽気なのだが、遠くから監視している大男の姿が嫌でも目に入った。
 本人は使用人に紛れているつもりらしいが、異様な存在感を放っている。

 しかし、麗しい公爵夫人の微笑みのおかげで、六人の夫人たちは心が和んでいた――。

 客人が喜ぶようなおもてなしを考える時間はとても充実しており、フラヴィオが頼ればクレメントもアドバイスをしてくれる。

(ヴィオの好きなように過ごせと、常時甘やかしてくれるクレム様は、世界一優しい夫ではないだろうか……)

 頼りになる夫に想いを馳せるフラヴィオの姿は、いつにも増してキラキラと輝いていた。

「っ……おふたりの馴れ初めを聞けたらと思っていましたが……。幸せそうでなによりですわ」

 ふわりと微笑んだリュシエンヌが、誰よりも幸せそうな顔で笑っている。
 フラヴィオだけを見つめる新緑色の瞳に、薄い膜が張っていた。
 惜しげもなく知識を与えてくれるリュシエンヌは、今やフラヴィオにとっては母親のような存在となっていた――。



 一方クレメントは、愛妻の初めての茶会の場を、遠くから眺めていた。
 夫人たちは招待客なのだが、少しでもおかしな行動を取れば、命はないとばかりの監視態勢だ。
 まるで狙撃手のような目をしているのだが、陽の光を浴び、健康的な生活を送る愛妻の姿を、目に焼き付けているだけである。

 『フルーツサンドに花を咲かせたい』と、なんとも可愛らしい発想を口にしたフラヴィオ。
 今回、初めて果物ナイフを手にしていた。
 刃物は危険だと使用人全員に反対されていたが、クレメントはフラヴィオのやりたいようにやらせている。
 果物を切ることはなかったが、小さな剣を手にした子供のように感動していたフラヴィオを思い出すクレメントは、鋭い目元を和らげていた――。












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