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しおりを挟む皆が羨むような結婚式を挙げたフラヴィオは、夫にこれでもかと愛されて、ぐっすりと眠る日々を繰り返していた――。
「おめでとう」
城の最上階から青い花畑を眺めるフラヴィオが、祝福の言葉を告げる。
日は暮れているが、ネモフィラの花は今日も元気に咲き誇っている。
そしてフラヴィオの視線の先には、公爵家の使用人ふたりが結婚式を挙げていた。
公爵夫夫の素敵な結婚式を見守っていたカップルが、こぞって真似をしているのだ。
本当なら主人であるフラヴィオも参列すべきなのだが、現在ベッドの住人に逆戻りしつつあるため、バルコニーから手を振っていた――。
(どこまでも広がるキャンドルの光は、それはそれは美しい。何度見ても感動する……)
皆が真似したくなる気持ちもわかる。
ほうっと息を吐けば、背後から優しく包み込んでくれている夫がフラヴィオの頬に口付けた。
「ヴィオ、部屋に戻ろう。風邪を引くぞ」
「…………っ」
熱を孕む漆黒色の瞳に見つめられ、フラヴィオは息を呑む。
ここ五日、深く愛されたというのに、未だにクレメントはフラヴィオを求めている気がした。
(……体格差だけでなく、体力差もえげつない)
愛されすぎてもう一歩も動けないのだが、クレメントに求められると、フラヴィオの胸は勝手に高鳴るのだ――。
「クレム様……。大好きですっ」
フラヴィオがお返しの口付けをすれば、クレメントは眉間の皺を深く刻んだ。
「…………ぐっ」
「クレム様?」
「……いや、なんでもない」
目を伏せたクレメントは、深く息を吐き出す。
己を落ち着かせようと、必死に制御しているのだが、クレメントがなにをしているのかがさっぱりわかっていないフラヴィオは、首を傾げていた。
「……ヴィオに、誕生日の贈り物を渡したい」
成人男性を軽々とお姫様抱っこするクレメントが、颯爽と歩き出す。
慌ててしがみつくフラヴィオだが、驚いていた。
なにせ誕生日の贈り物は、広い部屋がいっぱいになるほど受け取っていたのだ。
(誕生日の贈り物は、基本的にひとつではないのか? これでは、毎日が誕生日になってしまうのだが……)
遠慮すべきなのかもしれないが、フラヴィオは有り難く受け取っている。
クレメントがフラヴィオのために贈ってくれるものは、どんなものでも全て宝物なのだ。
「もう、たくさんいただいていますよ?」
「いらなければ捨てていい」
決してフラヴィオの目を見ないクレメントが、隣の部屋の扉に手をかけた。
むっとするフラヴィオは、傷のある頬に触れ、無理やり視線を合わせる。
「……そんなこと、私ができないとわかっていて仰っているのなら、クレム様は意地悪です」
「――……ッ!!」
怒った顔をしてみせたのだが、なぜかクレメントがよろついた。
発作でも起こしたのか、フーフーと必死に息を吐き出している。
負け知らずの戦場の鬼神は、愛する妻の可愛さに完全降伏しているだけなのだが――。
(度々起こる発作……。もしや、心臓に病を抱えているのでは? マヌエル様に診てもらった方が良いかもしれない……)
日に一度、多い時で二度、ふたりは深く愛し合っている。
そのため、クレメントが我慢しているなど思ってもみないフラヴィオは、本気で夫の体調を心配していた――。
「……ヴィオへの贈り物だっ」
そう言ってクレメントが扉を開ければ、夢のような世界が広がっていた。
多くの書物で埋め尽くされている室内は、まるで図書館のようだ。
壁一面に綺麗に書物が並べられており、フラヴィオは息を呑む。
「っ……凄いっ。ここにある本が、贈り物……?」
「あ、ああ。全て、ヴィオのものだ」
隣の部屋に移動しただけで、なぜかへろへろになっているクレメントが、室内をぐるりと一周する。
様々なジャンルのものが用意されているが、特に恋愛小説が多く揃えられていた。
ソファーに下ろしてもらったフラヴィオは、今までもらった中でも最高のプレゼントだと、熱くなる胸を押さえる。
「あっ……あれは……?」
一冊だけ、飛び出している書物を発見する。
高い位置にある書物は、きらきらとした金色の背表紙が目立っていた。
梯子に登ったクレメントが、フラヴィオの指差した書物を手に取る。
「これか?」
すっと書物を差し出したクレメントが、柔らかな微笑を浮かべた。
目元や口元に傷があれど、フラヴィオにとってはその全てが愛おしいのだ。
内面も外見も完璧で、まるで王子様のようだと、フラヴィオの胸はときめいていた。
「ヴィオ?」
「っ……ありがとうございます」
思わず見惚れていたフラヴィオは、ハッとして分厚い書物を受け取る。
クレメントに手を引かれ、ソファーに向かう。
夫の足の間に座るのはとても恥ずかしいのだが、クレメントに悟られぬよう、すました顔をするフラヴィオは、静かに頁を捲った。
(……フラヴィオ・レオーネに捧ぐ……)
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