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26 フィリッポ
しおりを挟む「それに。マルティン様は、フラヴィオを愛人にするつもりなのでしょう? 四年前から、あれだけベタ惚れなんだもの……」
くすりと笑ったミランダに、落ち着きを取り戻しつつあるフィリッポも同意していた。
フラヴィオを軟禁するきっかけとなった事件の三日後――。
レオーネ伯爵邸に、一通の手紙が届いた。
トレント侯爵子息からだった。
手紙には、事件の真相と、謝罪に行きたい旨が記されていたのだ。
フラヴィオがミゲルを守ったなど、フィリッポもミランダも夢にも思っていなかった。
加えて、フラヴィオが格上の侯爵子息に手をあげたことを知ってしまう。
この時すでに、フィリッポの命でフラヴィオを謹慎させており、食事も抜いていたのだ。
長時間、説教もしていた。
反省しないのであれば、鞭打ちをしてやろうかとも思っていた直後のことだった。
(……なにも言わなかったフラヴィオが悪い)
でも本当は、フィリッポはわかっていた。
なぜ自分が悪者になってまで、フラヴィオが口を噤んだのかを――。
頭を抱えるフィリッポに、天の声が聞こえた。
『だったら、フラヴィオの思う通りにしてあげましょう?』
天の声……。
否。
天使――ミランダの慈悲深い言葉は、フィリッポの胸に突き刺さった。
そして後日。
マルティンに謝罪されたふたりは、事を荒立てたくないと、和解していた――。
次期トレント侯爵に恩を売った。
そしてマルティンとは、今後困ったことがあればすぐに駆けつけると、約束まで交わしていた。
だが、フラヴィオには知らせなかった。
自分の間違いを認められず、どうしてもフラヴィオに頭を下げたくなかったフィリッポは、ミゲルに泣きつかれてもすっとぼけていたのだ。
マルティンとはずっと良好な関係を築いていた。
だから最近レオーネ領に現れた賊のことは、最初からマルティンに丸投げするつもりだったのだ。
それもこれも、賢いミランダが機転を利かせてくれたおかげだった。
(昔からミランダは、私を助けてくれる天使だっ)
過去を思い起こしていたフィリッポは、今回もまたミランダの話を真剣に聞くことにした。
「あの人なら、きっとフラヴィオを監禁するに決まっているわ? だから学園での噂も放置していたのよ。そうでなければ、嫡男であるフラヴィオを愛人には出来ないもの」
「っ……そうか! つまり、今後もフラヴィオは、社交界に顔を出すことはないというわけか!」
「さすがフィリね? 正解よ。だから、虐待の心配をする必要はないの。そもそも、私たちは虐待なんてしていないじゃない」
ツンと額を突かれたフィリッポは、にまにましながら頷いていた。
「本当心配性なんだからっ。でも、そんなところも素敵よ」
「私の妻は、いつでも頼りになるな! 最高の女だっ!!!!」
心からそう思っているフィリッポは、愛するミランダを抱きしめた。
そして、考えることをやめた。
領地に出没する賊の件も、フラヴィオが招き入れたと、大嘘をついていたフィリッポ。
フラヴィオの名を出せば、暴君に恐れを抱いている領民は、一旦引き下がってくれる。
どこにいようと、フラヴィオが姿を現さなければそれでよかったのだ。
それからのんびりと過ごしていたふたりの元へ、領地の管理を任せていた男がすっ飛んで来た。
「ぞ、賊を拘束した軍隊が、こここ、こちらに向かっていますッ!!!!」
「っ、なんだと!?!?」
いつも淡々と仕事をしていた男から、今にも死にそうな顔で報告を受ける。
なぜかガタガタと震えていたが、愛妻の前でカッコつけるフィリッポは、すぐに指示を出していた。
「丁重にお出迎えしろっ!!」
「は、ハイッ!!」
一大事だと察した使用人たちが、客人を出迎えるために一斉に動き出す。
てっきりマルティンだと思っているフィリッポも、大慌てでエントランスホールに向かった。
すでにフラヴィオを差し出しているため、報奨金は必要ないだろう。
金の面に関しては安心していたフィリッポの前に現れたのは、マルティンとは比べ物にならないくらいの大物だった――。
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