期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

文字の大きさ
上 下
24 / 129

24

しおりを挟む


 だだっ広い部屋に案内され、ソファーに下ろしてもらったフラヴィオは、食事にしようと席を立ったマルティンに果物を所望していた。

「……林檎がいい」

 マルティンとの再会は、フラヴィオを落胆させるものだったが、食欲が湧いていた。
 なにせマルティンの暴走のおかげで、マリカとキャシーがフラヴィオを見捨てていなかったことを知れたのだ。

「久々に、すりおろした林檎が食べたくなった」

 ふたりに思いを馳せるフラヴィオは、自然に頬が緩む。
 一方、愛する人の柔らかな表情を見たマルティンは、胸が高鳴っていた。
 今まで難しい顔をしていたフラヴィオが、笑いかけてくれたのだ。
 まさかフラヴィオが、自分以外の人間に思いを馳せているだなんて考えもしないマルティンは、膝から崩れ落ちた。

「ぐっ……。可愛いっ」

 昔より痩せてはいるが、フラヴィオの美貌は健在である。

(学園一強い男が、膝をついている……。これでは、偽りの噂が真実になっている気がするのだが……)

「お前、本当にマルティンなのか……?」

「っ、誰もが俺の顔色を窺うというのにっ! その淡々とした態度っ! やはりお前は、俺の愛しいフラヴィオだっ!!」

「…………は?」

 頬を染めて鼻息が荒くなるマルティンを眺めるフラヴィオは、もしかしたらフラヴィオの知っている親友ではないのかもしれないと思っていた――。




 
 快適な軟禁生活が始まって、三日目の朝。
 まずは、マルティン自らすりおろした林檎の山を献上される。
 食べさせようとしてくるのだが、フラヴィオは「腕が疲れただろう?」と労りの言葉で、餌付けは回避していた。

「そういえば、学園は?」

「休学した。父上も任務で国を離れているし、フラヴィオを俺のものにするなら、今がチャンスだと思ったんだ!!」

「…………」

 馬鹿正直に話すマルティンに、フラヴィオは呆れた顔をせずにはいられなかった。

「マルティンの気持ちは嬉しい。だが、考え直してくれ。私は相手が誰であろうとも、愛人になるつもりはない」

「なぜだ? 婚約者には話してあるんだ」

 何の問題もないと語るマルティンに、ガシッと肩を抱かれる。
 猪突猛進タイプの男は、相変わらず周りが全く見えていない。
 「食べづらい」と言葉を選び、逞しい手をそっと外したフラヴィオは、疑いの目を向けた。

「……話はしているけど、納得していないんじゃないのか?」

「ん? いや、そこは納得してもらう」

「…………ハァ。『お前を愛することはない!』だなんて、間違っても言わないでくれよ?」

 恋愛小説に登場した、間抜けな誰かが言っていた言葉だ。
 念のために忠告したのだが、なぜかマルティンの纏う空気がぱあっと華やいだ。

「っ、なんで俺の考えがわかったんだ!? ずっと会えなかったが、やっぱりフラヴィオは俺のことを一番理解してくれてるぜっ!!」

「…………ごめん。もう疲れたかも」

 フラヴィオは、寝ることにした。
 話が通じない相手と会話することは、とにかく疲れるのだ。

 考え直すよう話してまだ三日目だが、フラヴィオはマルティンを説得することを諦めていた。
 フラヴィオが説得するごとに、なぜかマルティンのフラヴィオへの愛が燃え上がってしまうのだ。

 仮に、フラヴィオがマルティンの愛人になったとして。
 マルティンからの愛が無くなった場合、フラヴィオは路頭に迷うことになるだろう。
 ミランダのように、正妻が亡くなった途端に後妻に昇格するという例は、滅多にない。

 それに、マルティンの婚約者も黙っていないだろう。
 信頼し合っている仲であれば、フラヴィオのことを疎ましく思うに違いない。
 もしふたりが不仲だったとしても、フラヴィオが今より不幸になる未来が目に見えていた。

 なにより、フラヴィオの家庭環境を知っておきながら、愛人として迎えるなどと、よく言えたものだと思う。
 マルティンの婚約者も、いずれ産まれる子供も、誰ひとりとして幸せにはなれない。
 幸せなのは、マルティンただひとりだ。

 フラヴィオは親友に、自身の最低な父親と同じことをしないでほしいと心から願っていた――。

 そんなフラヴィオのもとへ客が訪れる。
 そろそろか、と思っていたフラヴィオだが、父親ではなかったことに驚いていた。












しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

処理中です...