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しおりを挟む夕方に起きたフラヴィオのもとへ、外出用の花柄のワンピースを着たふたりが帰ってくる。
ミゲルに買ってもらったと喜ぶマリカは、他にもいくつか贈り物の箱を手にしていた。
すべて今のフラヴィオの体型に合った洋服だ。
「友人からのお誘いも断って、一日中フラヴィオ様の洋服を選んでいらっしゃいましたよ? 僭越ながら、私もアドバイスさせていただきました」
微笑むキャシーが今日着る服を用意し、残りはどんどんクローゼットに仕舞っていく。
贈り物はもちろん嬉しい。
だが、ミゲルがフラヴィオを想って行動してくれる気持ちが、なにより嬉しかった。
「明日は、髪飾りを買いたいそうですよ?」
フラヴィオの髪を梳かすマリカが、鏡越しににんまりと笑っていた。
髪飾り、と聞いたフラヴィオの顔が曇る。
愛嬌もあって人に好かれやすいミゲルであれば、学園でも人気があるだろう。
もしかしたら恋人がいるのかもしれない。
ただ、ミゲルを当主にしたいミランダがしゃしゃり出てくるはずだ。
だから十五になった今も、ミゲルは誰とも婚約していない。
「学園で、想う相手が出来たのだろうか……?」
フラヴィオの問いに、マリカが丸い目をぱちくりとさせている。
その姿が、兄なのに知らないのかと言われた気がして、フラヴィオは若干不機嫌になる。
「ふたりは知っていたのか? ……私はまだ聞いていないというのに」
呆気に取られるマリカとキャシーが作業の手を止め、顔を見合わせた。
「至急、恋愛小説を追加しましょう」
「そうね。これは重症だわ? 頭が固すぎる病よ」
「……なんの話だ? 私の体調は随分とよくなっているはずだが」
フラヴィオがむすっとした表情を晒してしまうが、ふたりはなぜか喜んでいた。
いつもどこか気を張っていたフラヴィオが、年相応の顔を見せてくれたからだ。
「ふふっ。フラヴィオ様? 今夜ミゲル様に、誰に髪飾りを買うのかを聞いてみてください」
仏のような顔をしたキャシーに、優しい口調で言われたフラヴィオは、静かに頷いた。
(もしかすると、ミゲルに婚約者が決まったのかもしれないな? それなら私が聞かずとも、ミゲルの方から話してくれるだろう)
無理やり聞き出すことでもない。
そう思っていたフラヴィオは、次の日の夜。
こっそり会いに来てくれたミゲルに、金色の髪によく似合うエメラルドの髪飾りをつけてもらっていた――。
「よかった、すごく似合ってます」
とても悩んだのだと語るミゲルが、にっこりと無邪気に笑っている。
とんでもない勘違いをしていたことがわかったフラヴィオは、恥ずかしすぎて居た堪れなかった。
(だからマリカとキャシーは、呆れたような顔をしていたのか……。昨夜、ミゲルに問い詰めるようなことをしなくてよかった……)
いつまでも金色の髪に触れていたミゲルが、名残惜しそうに手を離す。
「本当なら、僕の瞳の色のものをプレゼントしたかったんですけど……。兄様には、エメラルドが一番似合うと思って」
「……う、うん。ありがと」
目を見ることのできないフラヴィオは、伏し目がちにお礼を述べた。
ほんのりと頬を染める美しき兄の姿に、ミゲルの目が釘付けになる。
(兄の婚約が決まっていないのに、弟の婚約が先にととのうはずがない)
なぜそのことに気付かなかったのかと、フラヴィオは己を恥じていたのだが、ミゲルの目にはそんな風には映っていなかった。
「僕が必ず、兄様を幸せにします」
「……ん? よく聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
小首を傾げるフラヴィオは、ふわりと微笑む。
人前では見せない表情に、心を鷲掴みにされているミゲルが悶え苦しむ。
その姿を見たフラヴィオは、ミゲルの目元をそっと撫でていた。
「寝不足なんじゃないか? 今日は早めに休もう」
フラヴィオが先に寝なければ、ミゲルは休まないだろう。
それを見越したフラヴィオが先に寝台に入った。
呆然とするミゲルだが、フラヴィオが手招きをすれば、すぐに隣に寝転んだ。
結局、他愛もない話をしていたのだが、なぜかミゲルはうつ伏せの状態で朝を迎えていた。
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