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 騒ぎに駆けつけた大人たちに、なにが起こったのかと問いかけられるが、誰も口を開かなかった。
 頬を殴られた形跡のあるマルティンと、彼の背後に立つ子息たち。
 そんな彼らと対峙しているフラヴィオは、明らかに泣いているミゲルを守るように立っていた。

 フラヴィオが愛人の息子を可愛がっていることを知らない人々は、その状況に困惑する。

 そこへレオーネ伯爵夫妻がやってきて、一目散にミゲルを抱きしめた。
 嫡男の存在を無視するふたり。
 フラヴィオは周囲から同情の視線を集めることになり、居た堪れなくなっていた。

「ミゲルッ!! なにがあったんだ!?」

「っ……血がッ!! 怪我をしているわ!? きっといじめられたのよッ!!」

「と、とにかく怪我の治療をしなければっ。おい、早く医者を呼べっ!」

 正妻が死んでも狼狽えることのなかったレオーネ伯爵が、一大事だとばかりに声を荒げた。
 足の擦り傷を大袈裟に慌てふためくミランダは、使用人には任せられないとばかりに、ミゲルを抱いて邸へ駆け込む。
 『兄様がっ!』と、必死になにか言おうとしているミゲルの声が遠ざかる。
 そこでようやくフィリッポがフラヴィオに気付き、あろうことか怒鳴り声を上げた。

「ミゲルになにをしたッ!!」

 フラヴィオが犯人だと決めつけているフィリッポに、集まっていた招待客が眉を顰めた。
 なにもしていないと答えたところで、この男は信じないだろう。
 自分の都合の良いように解釈することしかしない父親を、フラヴィオは無言で睨みつけた。

 沈黙が訪れる。
 すっと立ち上がったマルティンが、なにか言おうと口を開くが……。

「っ、あ、あのっ――」

「フラヴィオを連れて行けッ!! 反省するまで、部屋から出すなッ!!」

 うんともすんとも言わないフラヴィオに業を煮やしたフィリッポが、使用人に向かって叫ぶ。
 フローラを敬愛していた使用人たちだが、当主の命令は絶対である。
 今は指示に従いましょうとばかりに目配せをされ、フラヴィオは自室に向かうことにした。

 その際に友人たちを見れば、皆がフラヴィオから目を逸らした。
 呆然とするマルティンの気持ちはわからないが、友人らは証言をするつもりはないようだ。
 だが、フラヴィオもその方が良かった。
 なぜなら、義弟がいじめにあっていたとはいえ、フラヴィオも手を出してしまっている。
 ただの兄弟喧嘩だと思われた方が、大きな問題にはならないと瞬時に判断していた。

 そして、解散することになったが――。

 現場を見ていないミランダが、ミゲルはフラヴィオに虐められたのだと話し、フィリッポはその言葉を鵜呑みにした。
 ミゲルは泣きながら必死に違うと話していたが、無視された。
 そして使用人たちも口を噤んだ。
 なぜなら、レオーネ伯爵家の者が侯爵子息に手を出したことが露見すれば、確実に抗議される。
 フラヴィオを守るための判断でもあった。


 ――罰として自室に軟禁されることになったフラヴィオは、食事も与えられなかった。


 だがフラヴィオは、なんとも思っていなかった。
 朝晩二回、たまに昼間にも、バルコニーに贈り物が届いていたのだ。
 隣の部屋の小さな主人が、フラヴィオのためにパンをくすねてくれており、謝罪と感謝の手紙も添えられていた。
 秘密裏に、大好きな気持ちが溢れる手紙を交換し合うふたりの仲は深まるばかりだった。
 
 それから一週間後――。
 ささやかな食事が出されるようになる。
 さすがに餓死しては困るからだろう。

 体を動かすことも出来ず、自室でぼんやりと過ごすフラヴィオは、少しずつ気力が失われていく。
 立ち上がると目眩がして、いつのまにか起き上がることも困難になっていた。
















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