婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?

ぽんちゃん

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婚姻後

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 セナのお披露目会から三ヶ月が経ち、ガイル子爵家からジェイコブの名が消えていた。

 病に臥せていたジェンキンス・ガイルを、公爵家の別邸で療養させ、優秀な医師に診てもらった。
 早く元気になってもらう必要があっての行動だったのだが、そこでジェイコブが兄に微量の毒を盛っていたことが発覚したのだ。

 ジェイコブは献身的に兄の看病をしており、罪が発覚した時には、誰もが信じられなかったようだ。
 美しい弟を可愛がっていたジェンキンスだが、さすがに許すことはできず、ガイル子爵家から弟を追放した。

 そして平民になったジェイコブに着いていく伴侶は、誰一人としていなかった。
 正直なところ、意外だった。
 いくら容姿が美しくとも、心が醜ければ、伴侶にも愛想を尽かされてしまうことを教わった。

 結局ジェイコブは、今は自身の美貌を駆使して、なんとか生活しているようだ。
 リュセに近付かないのであれば、ジェイコブがどうなろうと構わない。
 ジェイコブがどんなにアピールしたとしても、私の可愛い人は見向きもしないので安心している。



 「ファンが凄い勢いで売れてますね!」
 「ああ、そうだな」

 私に寄り添うリュセが、本日もにこにこと愛らしい笑みを浮かべている。
 休日に、家族でサルース商会を訪れていた私は、妻に似て従業員に的確に指示を飛ばす五歳児を見ながら、頷いていた。

 「セナはすごいのだ! 自慢の弟なのだ!」

 リュセと同じように黒い瞳を輝かせるシオンは、弟自慢が止まらない。
 そんなシオンの手を繋ぎ、邪魔をしないようにと見守っているルドルフ。
 本当なら第二騎士団にスカウトしたいのだが、シオンのお願いには殊更弱い男は、『サルース商会は安泰ですね』と告げていた。

 「でも、なんでセナは扇風機……じゃなくて、ファンを作ろうと思ったんだろう?」
 「……富裕層の妖精族が、皆暑がりだからじゃないか?」
 「そこまで考えて作ったなら、本当に天才だと思います! さすが僕たちの自慢の息子ですね?」
 「セナはなんでも出来るのだ! 私も見習わなければならないな!」

 なにも知らない二人が、セナを天才だと褒め称える。
 確かに天才だとは思う。
 だが、セナは実際に異世界に行ったことのある人間なんだ。

 そのことを教えてくれたのは、古いエレベーターで凛々しい異世界人の姿を目撃してから、半年が経った頃だった。

 私が朧げに思い出したのは、異世界から現れたリュセに恋をしたこと。
 そして離れ離れになってしまったという、悲しい出来事だけだった。

 セナの話によると、リュセがいなくなって私が廃人になり、オースティンさんが殺人犯になった。
 家族はバラバラになってしまったが、リュセは生きていると信じていたセナは、二十年後に封印されていた異世界へと繋がる箱に飛び込んだのだ。
 ストーカー男からリュセを守り、その後の記憶はなく、気付けば赤子として産まれてきていた。

 今の私たちの幸せな日常があるのは、すべてセナの勇気ある行動のおかげだ。

 覚えていなくとも、そう思う。
 なにより私は、セナを信じている。

 「ふ、ふぇ~んっ! あのお兄ちゃん、怖いよぉぉぉ~!」
 「っ、も、申し訳ありませんっ!」
 「「…………」」

 従業員の子供が、セナの顔を見て泣きじゃくる。
 悪気はないのだが、一番傷付くやつだ。

 慰めようと思ったのだが、さっと仮面をつけたセナは飄々としている。

 「チッ。だからこの国の女は嫌なんだ。日本の美女たちは、み~んな俺に優しかった。少しは見習えよ」
 「見習うもなにも、会ったことがないから無理じゃないか?」
 「……父様も異世界に行けばわかりますよ。一文無しの素性不明の醜男に、飯を食わせてくれたり、家にまで泊まらせてくれて……。夜のお誘いまでしてくれるんです。はあ、日本が恋しい……」
 「っ…………まさか、経験済みではないよな?」

 避妊はしたのかと焦っていると、鋭い目付きで睨まれてしまった。

 「なになに? なんの話?」
 「母様……。父様が、今日も母様とイチャイチャしたいそうです。愛しているとうるさいので、先に連れて帰ってください」
 「っ……本当ですか?」
 
 ほんのりと頬を染めるリュセに、愛おしげに見つめられてしまった私は、愛妻を抱き上げて、さっさと我が家に戻っていた。














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