婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?

ぽんちゃん

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婚姻後

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 「食いついて来たな」

 くつくつと心の中で笑っている俺は、大きな腹を抱えた恋人を連れて、我先にと挨拶の列に並ぶ貪欲な男をロックオンしていた。
 自慢のオレンジ髪が目立つ男、ジェイコブ。

 子爵位では満足できない男は、必ず俺の蒔いた餌に食いつくだろうと思っていた。

 過去に俺が日本で世話になった、赤面症を患う恩人の家にあった『扇風機』。
 ミラジュー王国にはまだない、未知の物だ。
 俺が異世界のものを作れるとなれば、皆が俺を欲することになる。

 ただ、俺はリュセ母様のように美しくもなければ、純真な心をもっているわけでもない。
 だから仮面で顔を隠し、ミステリアスな存在として登場することにしたのだ。

 ライトニング公爵家の遠縁だというだけで、デカい顔をしている男が目の前に立つ。
 祝ってもらいたいからと、妊娠している恋人を連れ回すなと言ってやりたい。

 これから少しばかり心臓に悪いことを行うため、ジェイコブの恋人には顔色が悪いと告げて、控室で休んでもらうことにした。
 公爵家の使用人が丁重に案内したことにより、ジェイコブは満足そうに鼻の穴を広げた。

 「私は過去に、君のお父様と、ライトニング公爵家の後継者争いをしていたんだ。リュセ様が現れるまでは、私が最有力候補で──」
 「公爵夫人」
 「っ……ああ、そうだね。つい、昔の癖で……」

 謝罪をする気のない男は、今も威張っている。
 ライトニング公爵家の後継者争いをしていたからといって、コイツ自身が偉いわけでもなんでもないというのに。
 頭の中に花が詰まっているとしか思えない。

 「だ、だが、私たちは親戚だぞ? 名を呼ぶことくらい……」
 「そうらしいですね。うっかり忘れていました。申し訳ありません」

 まだ子供だから許して欲しいと言えば、ジェイコブはピクピクと頬を痙攣させる。
 常に注目されていたジェイコブは、チヤホヤされることが大好きだ。
 コイツの嫌がることは把握済み。
 軽くジャブを打っただけなのに、ジェイコブは面白いほど狼狽えている。
 五歳児なら扱いやすいと思っていたのかもしれないが、大間違いだ。

 「それに、両親から聞いた話では、俺の父様を見下していたんですよね?」
 「っ、い、いや、そんなことは……」
 「ああ、でも気にしないでください。真面目に生きて来た父様は、今は唯一の伴侶と幸せの絶頂にいますから。過去のことは、すっかり忘れているようですよ?」
 「つっ……」

 お前のことは眼中にはないと言ってやれば、怒りで顔が真っ赤に染まっていた。
 結局コイツは、今も父様を見下しているんだ。
 それなのに、遠い親戚だからと甘い汁を吸おうとする野郎を、俺が撃退してやる。

 「セ、セナ様は、サルース商会を継ぐのだろう? 平民にならずとも、私の息子の婿に来ないか?」
 「ククッ、そうですね……。それもいいかもしれません」
 「っ、本当か!?!?」

 目立ちたがり屋が、大袈裟に声を張り上げる。
 ジェイコブも、お前の息子もいずれ平民になるというのに、なにを馬鹿なことを言っているんだ。

 呆れている者もいるが、俺の反応に驚いて、ほとんどの者が聞き耳を立てていた。

 そして俺は、仮面に手をかける。

 チラリと顔を見せてやれば、ジェイコブの顔がみるみるうちに顔面蒼白になった。

 「っ!!!!」
 「どうしたんです?」

 あと少しのところで、公爵の座を奪った男にそっくりな俺の顔を見たジェイコブが腰を抜かした。
 間抜けな男に、俺はにっこりと笑ってやる。


 「っ、バッ、バケモノッ!!!!」


 あまりに衝撃的だったのか、掠れた声だったが、俺の近くにいた者たちには聞こえただろう。

 事前の計画通り、様子を見守っていたエルヴィスお祖母様と、サルース商会の従業員が、鬼の形相で俺たちのもとに近寄った。

 ……が。

 彼らよりも先に動いた人物がいた。
 ふわりと揺れた淡い水色の衣装が、俺の大きく見開いた瞳に映る。


 「誰がバケモノなんです? ……まさか、僕の可愛いセナのことじゃないですよね?」


 俺の予想外の人物が、絶対零度の視線でジェイコブを見下ろしていた。










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