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婚姻後
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しおりを挟むリュセ様への熱い視線をぶった斬るように、本日の主役が登場した。
美しい漆黒の髪のセナ様に、皆の目が釘付けになっている。
「セナ・ライトニングです。この度は、私のお披露目会にお集まりいただき、誠にありがとうございます」
五歳児とは思えないしっかりとした挨拶に、完璧な礼儀作法。
皆が度肝を抜かれたのは、それだけじゃない。
なにせ顔全体を覆う真っ白な仮面により、容貌は碧眼だけしかわからないのだ。
前代未聞のお披露目会。
騒然としている会場内で、俺はちらりとリュセ様に視線を送っていた。
我が子に拍手を送るリュセ様は、いつものように堂々としている。
「仮面が気になる?」
「っ、はい……」
「後ろ姿で、あっ、美人だな? って思われて声をかけられてさ。振り向いたら、『間違えました』って言われたら傷付くよね? だから仮面をつけておけば、表情を取り繕う必要なんてないし、お互いのためなんだって」
「……なるほど。セナ様は、過去にそういった経験がお有りなのでしょうか?」
「ない、とは思うんだけど……」
過去を振り返っている様子のリュセ様が、少し自信なさげに返答すると、団長が真っ直ぐ前を向いたまま口を開いた。
「あの仮面は、リュセのためだ」
「……え?」
「自分に注目が集まれば、リュセを狙う者たちの気をそらし、守ることができると考えたのだろう。私の可愛い人は、今でも皆を魅了してやまないからな?」
「っ、」
くつくつと喉を鳴らした団長は、驚きを隠しきれないリュセ様に向かって微笑んだ。
悪魔のような笑みなのだが、ほんのりと頬を染めたリュセ様は、幸せそうに夫に寄り添っていた。
「セナは、私より度胸があるな? いったい誰に似たのだろう?」
「……僕じゃないですよ?」
「ククッ。そういうことにしておこう」
仲睦まじい二人は、この日のために用意していた、回転する羽根によって風を発生させ、涼感を得る機器の説明をしているセナ様を、温かい目で見守っていた。
「こちらのファンがあれば、本日皆様が快適に過ごせるかと思い、発明しました」
大勢が集まる会場に、涼しい風が吹く。
五歳にしてとんでもない品を作り出した天才発明家の誕生に、皆が仰天していた。
「っ……涼しいっ。このような便利なものを、五歳児が作ったというのか?」
「信じられないっ。……だが、リュセ様のご子息なら、ありえるのか……?」
リュセ様が作り出したのなら納得だが、皆は本当に目の前の小さな子が発明したのかと、信じられない様子だ。
醜男すぎて仮面をしているのか、それともリュセ様に似て美しすぎて隠しているのか。
どのような容姿かはわからない。
だが、皆はリュセ様の愛息を見つめる愛おしげな視線から、セナ様の機嫌を損ねることは得策ではないと、すぐに判断した。
「なんて素晴らしいっ! 我々のために用意してくださったとは」
「夏でなくとも使用したいっ。いくら払っても欲しい品だ!」
「どうやったら、羽が勝手に回るんだ?」
「サルース商会でも購入出来るのだろうか……」
ふくよかな貴族たちが、風を送り出す機器にこぞって目を輝かせている。
子を宿すことのできる者たちは、珍しい物を好むため、すでに購入する気でいる。
特に暑がりな妖精族には、喉から手が出るほど欲しい品だろう。
会場内に設置したファンを起動させた者たちが、セナ様の元に集まる。
その中にはエレベーターを発明した人物の姿も見え、小さな主人に敬意を表していた。
セナ様がサルース商会を継ぐことは、既に決定されているのだと、言われずとも判断できた。
皆の目の色が変わる。
シオン様でもセナ様でも、どちらでもいい。
縁を結びたい。
今までは、シオン様だけに注がれていた視線が分散されることとなり、仮面の下のセナ様はきっと満足げに笑っていることだろう。
リュセ様の才能を引き継いだ次男の華々しい登場に、皆が歓喜しているが……。
セナ様が仮面を外した時には、どんな態度になるのか。
その時、セナ様を溺愛しているリュセ様を怒らせてしまうのではないかと想像してしまった俺は、ひとり戦々恐々としていた。
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