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婚姻後
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しおりを挟む華やかに飾られたライトニング公爵邸の大ホールでは、女神の登場を今か今かと待つ多くの貴族で賑わっていた。
本日は、次男セナ様のお披露目会なのだが、皆の目的は何年と経ってもリュセ様だ。
異世界人の血を引き、麗しい容姿のシオン様ももちろん注目されている。
だが、美貌や人柄だけでなく、異世界の知識を駆使して新たな物を生み出せるのはリュセ様だけだ。
皆がこぞって我が物にしたいと願う、特別な存在なんだ。
そんな我が国の宝であるリュセ様の護衛を任された俺──ヴィクター・リッチ。
名前の通り、今回の大役を勝ち取っていた。
「お待たせっ」
「っ……」
淡い水色のスレンダードレスを身に纏うリュセ様が現れて、待機していた俺は息を呑む。
ふわふわとした優しい印象を与える衣装は、リュセ様の愛らしさを倍増させていた。
思わず触れたくなるようなシフォン生地で、リュセ様が歩くだけで目を奪われる。
本日初披露となるエレガンスなお姿を、一足先に見ることができた俺は、目の前の黒髪の天使に見惚れていた。
「今日の主役はセナだけど、僕の護衛を引き受けてくれてありがとう。ヴィクターくんが志願してくれたって聞いたよ?」
「っ……い、いえ、その、光栄です。必ずお守りいたします」
ビシッとカッコつけてみたものの、上目遣いではにかんだリュセ様の愛らしさに、俺は顔が熱くなるのを止められなかった。
ちなみに身長差ゆえのことなので、リュセ様が俺に色目を使っているわけではない。
「っ、とても素敵ですっ」
「ありがとうっ! ヴィクターくんのお眼鏡にかなったなら、きっと大ヒット間違いなしだ!」
嬉しそうに小さく弾んだリュセ様は、新作衣装を褒められたと勘違いをしているが、そんなところも可愛いんだ。
「ヴィクターくんも、今日は一段とキマってるね? セナのためにありがとう」
「っ、いや、俺は、その……はい……」
「母性本能をくすぐるような可愛らしい内面なのに、ワイルド系の顔立ちだなんて、狡いギャップがたまらない王子様だよっ!」
……なにやら早口すぎてよくわからなかったが、褒められたのだと、思う。
(可愛すぎる笑顔にときめく俺は、黒い瞳に吸い込まれそうだっ!)
「くれぐれも、私がいることを忘れるなよ」
「ヒッ!」
リュセ様に聞こえないように配慮しつつ、ドスの効いた声で脅してくる団長。
元々リュセ様を大切にしていた団長だが、半年程前からその勢いが加速し、立場を弁えている俺たちも驚くほどの溺愛っぷりだ。
なぜか昔から妖精族ではなく、ブサイクな俺たちを警戒している。
確かに俺たちはリュセ様と接触する機会は多いため、心配する気持ちもわからないわけではない。
だが、団長にも止められない理由がある。
毎年秋に行われる狩猟大会において、上位十名に入賞した者は、国の保護対象となっている異世界人の護衛の任に就くことができるのだ。
俺たちが毎年狩猟大会に参加し、熾烈な争いを繰り広げている事を知らないのは、リュセ様おひとりだけだ。
先を歩いていたリュセ様が、振り返る。
いくつになっても、なんて愛らしいお方なのだと惚れ惚れしてしまう。
そして、ぼんやりとしていた俺の背後に回った。
(まるで空を自由に羽ばたく妖精のようだ……)
「ふふっ。そんなに緊張しなくても大丈夫っ! リラックスリラックス!」
「ふぁいッ!!」
背後から肩を揉まれてしまった俺は、歓喜のあまり膝の力が抜けてしまう。
(リュセ様を狙う野郎共を始末する前に、俺が天に召されそうだっ!)
護衛対象に瞬殺されてしまった俺だが、己の使命は全うするつもりだ。
「ありがとうございます……リュセ様……」
「ふふっ。それは僕の台詞だよ?」
笑顔で首を傾げるリュセ様は、いつも俺たちなんかにも感謝の言葉を忘れない。
……俺のオアシスだ。
本来、夫ではない俺たちが、リュセ様と名を呼ぶことはできない。
だが、今も昔も変わらず親しい友人として接してくださっているんだ。
「それじゃあ、行こうか」
「はいっ」
女神を狙う無礼者共を近付かせないために、俺は気合いを入れた。
仲睦まじい二人が会場に足を踏み入れると、容姿に自信のある若者たちが、案の定リュセ様に目が釘付けになる。
……会場内には、けしからん野郎共しかいなかった。
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