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婚姻後
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しおりを挟む真っ白な封筒を持つセバスさん。
封を開けてもいないのに、手紙を見た瞬間にシュヴァリエ様はげんなりとする。
ガイル子爵家からの手紙だった。
「ジェイコブからです」
「…………またか」
「はい、またです」
僕とセバスさんは苦笑いだ。
実は、引きこもりになっていたジェイコブさんは、二年前にガイル子爵になったんだ。
お兄様が病で臥せているから、代理だけど……。
ジェイコブさんは見目は美しい部類らしいから、すぐに伴侶を迎えることになった。
しかも、愛人もわんさかいるんだ。
子を宿すことのできる人が重婚をするのは普通のことだけど、逆は滅多にない。
つまり、相当なプレイボーイだ。
でもジェイコブさんのお兄様にも子供がいる。
だから、ジェイコブさんや彼の子供がガイル子爵にはなれないけど……。
そのことをわかっているのかな?
ちょっと心配だ。
「あとにしてくれないか? 今から大切な用事があるんだ」
見たらわかるだろうとばかりに告げたシュヴァリエ様に、セバスさんは引き下がる。
「で、でも、急ぎの用事かもしれませんよ?」
ジョイコブさんのことより、セバスさんを困らせたくなくて告げた僕。
そんな僕に愛おしげな視線を送ったシュヴァリエ様は、その後、なぜかセナに目配せをした。
「俺が代わりに対応しますよ」
さっとセバスさんから手紙を奪ったセナが、読み始める。
エルヴィス母様から商会の仕事を教わっているため、読み書きも完璧なんだ。
さらっと読み終えたセナは、まるで汚いものでも持つかのように、手紙の端をつまんだ。
「コブタが、また恋人を孕ませたってよ」
ぼそりと呟いたセナは、ジェイコブさんに会ったことがないのに、なぜか毛嫌いしているんだ。
「……セナ? コブタじゃなくて、ジェイコブさんね?」
「はいっ、母様。未熟者ゆえに、間違えてしまいました」
綺麗な碧眼をうるうるとさせて謝罪されると、僕が悪いことをした気になってしまうくらいに可愛いんだっ。
本人の前でも言ってしまわないかと心配になる僕は、気をつけてねと話していた。
賢い子だから、さすがに公の場ではやらかさないだろう。
笑顔で頷いてくれたセナに、僕は安堵していたのだけど……。
「どうせ今回も、出産祝い金が目当てだろ。年中発情期の豚野郎が」
可愛い顔から、信じられないような言葉が吐き出される。
チッと舌打ちをしたセナに、僕は開いた口が塞がらなかった。
絶句している僕に気付いたセナは、ばつが悪そうに視線を彷徨わせた。
「と、お祖母様が言っていました」
「~~っ、母様っ!!!!」
「あ、ああ、悪い悪い。でも本当のことだから仕方ないだろぉ~? セナも、俺の真似をして汚い言葉を使ったらダメだぞぉ~? 俺がリュセに怒られちまっただろぉ~? あはは、ははっ……」
笑って誤魔化そうとする母様を睨むけど、シュヴァリエ様はなにも言わない。
きっと優しすぎて言えないのだろうと、勘違いをしている僕は、奥の手を出す。
「……母様が反省しないなら、僕にも考えがあります。このままでは、サルース商会を継がせるわけにはいきませんっ! 可愛いセナに悪影響です!」
「っ、すみませんでした!! それだけはやめてくれっ!!」
土下座する勢いで反省したエルヴィス母様は、セナを抱きしめて離さない。
セナもそれは嫌だとばかりに泣きそうになって、エルヴィス母様にしがみついている。
二人の絆は、もしかしたら母親の僕よりも強いかもしれないと思うほどだ。
心から反省したらしい二人を残して、僕たちは寝室に向かった。
「そんなに心配しなくても、セナなら大丈夫だ」
最近のシュヴァリエ様は、過去にあれだけセナを心配していたのに、今は温かく見守っている。
なんとも言えない顔をしていると、シュヴァリエ様が僕を寝台に寝かせ、すぐに覆い被さった。
「今は、リュセとの時間を大切にしたい」
「っ……」
熱い視線を送られてしまい、一瞬で心配事が吹っ飛ぶ僕は、真っ赤な顔で頷いた。
僕たちは、国を代表するおしどり夫婦だっ!
これでもかと愛されている僕は、有能な異世界人を手に入れようと、意気揚々とお披露目会に参加する容姿に自信のある若者のプライドを、勝手にポキリとへし折ることになる。
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