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婚姻後

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 夕飯の席では、僕が作った唐揚げを爆食いしているイケメン集団がいる。
 仕事で体を動かしているから、素晴らしい食べっぷりだ。

 「リュセ様の手料理は、どれも本当に美味しいですっ!」
 「どんな金持ちでも、こんなに美味しいカラアゲを食べてる人はいませんよ!」
 「ああ。幸せだ……。居心地が良すぎて、家に帰る気が失せるな」
 「わかるっ! 俺たちがこんなに楽しく食事ができるのは、女神が住まう屋敷だけです!」

 キラキラとした視線を送られてしまった僕は、照れ臭くて微笑んだ。
 みんなはシュヴァリエ様の部下だし、僕たちの護衛もしてくれている。
 僕はシュヴァリエ様の妻として、当たり前のことをしているだけ。

 それでもみんなはいつも褒めてくれるんだ。
 お世辞ではなく本心を語っていることは、みんなの目を見たらわかる。
 いくつになっても、褒められたら嬉しい……。

 「ふふっ。いつもシオンとセナの面倒をみてくれてありがとう。そのお礼だよ」
 「「「っ……天使だ」」」
 「天性の人たらし」

 ひとりだけ、みんなと違うことを言ったセナは、黙々と唐揚げを食べている。

 ……人たらしって聞こえたけど、僕の気のせいかな?

 教えてもいない言葉をよく使っているセナをじっと観察していると、完璧なテーブルマナーで食事を終えたシオンが、すっと立ち上がった。

 「今日から自分の部屋で寝ます!」
 「……本当に大丈夫? なにかあったらすぐにベルを鳴らしてね?」
 「はいっ! 私は次期当主になるのです。今から親離れの練習をするのです!」

 ライトニング公爵家の跡取りとして、頼もしい発言をしたシオン。
 毎日一緒に寝ていた僕としては、嬉しいような悲しいような、複雑な心境だ。
 それでもシオンの頑張りを、僕は応援するぞ!

 「父上も、よろしいですか?」
 「ああ。寂しくなったら、深夜でも来ていいからな?」
 「はいっ! ありがとうございます」

 シュヴァリエ様の許可を取ったシオンは、黒い瞳をキラキラと輝かせていた。
 そんなに親離れしたかったのかと、ちょっとびっくりしていた僕。
 笑顔でおやすみなさいと挨拶をしたシオンが、ルドルフくんの手を取った。

 「やったぞっ! 父上の許可を取った! 公認だっ! 一緒に寝るのだっ!」
 「「「…………」」」

 戸惑いながら、僕とシオンに交互に視線を送るルドルフくんだったけど、ぐいぐいと引っ張られて食堂を後にした。
 残された第二騎士団員たちは、ぽかんと口を開けて、顔を見合わせている。

 「……一人で寝るんじゃないのか?! なぜルドルフを連れて行く必要があるんだ」
 「っ、お、おおお落ち着いてください、シュヴァリエ様っ!」

 ブチギレ寸前のシュヴァリエ様が席を立ち、僕は慌てて引きとめていた。
 なんの罪もないルドルフくんが、ボコボコにされてしまいそうだ。

 「シオンは自分の部屋で寝ると言っていましたけど、一人で寝るとは言っていませんでしたよ?」
 「くっ。言われてみれば……。たばかられたかっ」
 「いやいや、シオンは策士ではないと思いますけど……」

 めちゃくちゃ悔しそうにするシュヴァリエ様が可愛すぎて、僕は笑いを堪える。

 「シオンになにかあったら……」
 「でも、シオンはまだ八歳ですよ? それに、心配した方が良いのはルドルフくんの方かも……?」
 「……俺もそう思う」

 ぼそりと呟いたセナは、騒ぐ両親を他所に、淡々と口許を拭っていた。





 「この並びで、本当にあってる……?」

 天井を見上げて寝ている僕は、右隣のシュヴァリエ様、左隣のセナから抱きしめられていた。

 「広いから落ちる心配はないけど……。普通は、セナが真ん中じゃないのかなあ?」
 「母様が真ん中の方が安全です」
 「そうなの……?」

 よくわからないけど頷いだ僕は、二人に抱きつかれて暖かくなり、すぐに微睡んでいた。

 「母様のことは、俺と父様の最強コンビが守る。兄様はルドルフが守ってくれるし、イチャつけるだろうからウィンウィンだ」
 「…………ん? なんて?」
 「いえ。父様とふたりきりになりたいなら、俺も一人で寝ますので」
 「っ!?」

 びっくりして飛び起きたけど、おかしな発言をした張本人は、すやすやと寝息を立てていた。
 三歳児に気を遣われてしまった僕とシュヴァリエ様は、驚愕した表情のまま目を瞬かせる。

 「……確かに。たまにはリュセと二人で寝たい」
 「~~っ、シュヴァリエ様っ!? そうじゃないでしょう!?」

 三十を過ぎても美しすぎる夫にチュッチュされまくる僕は、ダメですぅ~! と言いながらも、デレ顔で受け入れていた。










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