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婚姻後
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しおりを挟む俺が五歳になった頃に、異世界へと繋がるエレベーターが起動し、二人の異世界人が現れた。
母様の妹と名乗る平民のブサイク。
名をキラリ。
ミルクティーみたいな髪の女は、ずっと母様を探していたらしい。
そこは感動の再会となったわけだが。
妹と一緒に来た奴がいたんだ。
異世界から来た二人が、ミラジュー王国に召喚された時。
妹は母様が最後に姿を消した家の主に、話を聞きに行っていたところだったんだ。
おまけの分際で体格の良い男は、母様の職場の上司だった。
名をエンドー。
異世界に来たことに戸惑う二人は、最初はすごくおとなしかった。
そう、最初だけだった……。
俺たちの生活にこの二人が加わったことで、仲良し家族はバラバラになってしまったんだ。
母様を使用人のように扱うキラリは、とんだ性悪だった。
朝起きると、まず髪を結えと命令する。
母様は優しいから毎日面倒をみてあげていたけど、当たり前のようにこき使うんだ。
俺たちが自分のことは自分でやるようにと注意しても、『だって、お兄ちゃんだよ? 妹を可愛がるのは当たり前じゃない』と、そんな常識も知らないのかと、呆れたように話すのだ。
『それに人に頼むとお金がかかるじゃない。節約だよ、せつやく!』
一切金を払っていないくせに、なにを言っているんだと思った。
商会の仕事を手伝うこともなく、毎日買い物に出掛けて遊び回っていた。
そして困ったことに、『お兄ちゃんにはもったいないでしょ』と、父様に言い寄るんだ。
どんな我儘でも許していた母様だけど、父様のことだけは譲らなかった。
そのことにイラついたのか『男同士なんて気持ち悪い』と、母様に毎日吹き込んでいた。
調子に乗るキラリが、父様にべったりになる。
何度も断っていた父様だったが、俺の目から見てもキラリはかなりしつこかった。
突き放したいが、愛する人の家族だ。
そして悩む母様を慰めていたのが、エンドー。
『日本に帰ろう』
『二人は、美男美女でお似合いじゃないか』
『あの男は、流星にはもったいない』
『俺が流星を幸せにする』
俺たちの前では寡黙で真面目アピールをしていた男は、陰でずっと母様に言い寄っていたんだ。
姑息なエンドーだったが、母様はどんなことがあっても日本には帰らないと話してくれていた。
俺と父様のために……。
そして事件は起こった。
雪が降り始めた、ある日。
妹にせがまれて買い物に出ていたリュセ母様が、『もう一人の異世界人に襲われて行方不明になった』と報告を受けた。
父様を悲しませるくらいならと、自ら異世界へと繋がる箱に飛び込んだのだ。
箱を起動させるには、満月の夜、異世界の持ち物などの様々な条件があった。
それを無視した母様は、きっと生きてはいないだろうと判断された。
そしてこれ幸いとばかりに、母様の代わりになると告げたキラリ。
最愛の人の妹に抱きつかれても、まったく反応しない父様は、しばらく現実を受け入れることができなかった。
二人が出逢った場所や思い出の地を駆け回り、ひたすら母様を探していたんだ。
悪の元凶に復讐するだなんて、考えもしなかったのだと思う。
俺も悲しみに暮れていたが、なにより憔悴する祖父母を見ていられなかった。
そして『私がセナの新しいお母さんだよ』と言いやがったバカ女のことは、俺が箱にぶちこんで異世界へと送り返してやった。
◇
リュセ母様を襲った異世界人が、いつかまた襲来するかもしれないことを教えたい。
もやもやした日々を送っている俺の目の前には、正反対の容姿をしたふたりがいた。
「セナはすごく可愛いだろう?」
何百回と同じことを言っているのは、ライトニング公爵家の美しすぎる跡取り。
その言葉に、ひくりと頬を引き攣らせたのは、屈強なメンタルを持つ醜男。
シオン兄様の護衛であり、想い人だ。
イライラして不機嫌な俺をじっと見ており、返答に困っている。
「……え、ええ」
「っ、あっ、ストップ! ル、ルドルフが可愛いと言う相手は、私だけにしてほしいのだ……」
もじもじしながらお願いをしたシオン兄様は、この世で最も愛らしい五歳児だった──。
不覚にも、イラついていた俺の胸がきゅんと音を立て、和やかな気持ちになっていた。
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