婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?

ぽんちゃん

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婚姻後

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 いろいろと思い出していた俺は、ふぇ~んと情けない声で泣いていた。
 みんなしてあやしてくれるが、一番かまってほしい母様だけは、さっと俺から離れた。

 ちょっと抜けているところがある母様は、手際よくミルクを準備している。
 お腹が空いたと思っているらしい。

 (……俺の母様は、なんて可愛い人なんだ!)

 大好きだと叫ぶのに、俺はまだ喋れない。
 母様の気を引こうと泣き叫んでいると、バーンと扉が開く。
 何事だと子供部屋に入ってきたのは、茶髪に茶色の瞳の平凡な男。
 誰になにを言われても、俺にしつこくくっついていたシオン兄様が、さっと姿勢を正した。
 かなり偉い人なのだろう。

 「また弟とお話していたのかな?」
 「はい。セナは、とっても可愛くていい子なのです。今はお腹が空いているだけなのです!」
 「そうかそうか。可愛いか……。リュセさんの教育の賜物だな?」

 平凡男に褒められた母様は、嬉しそうににっこりと微笑んでいる。
 二人の子持ちとは思えないほど若々しい母様を、平凡男は気に入っているようだ。
 
 俺の自慢の母様なのだから、当たり前だがな!

 「だが、シオンも愛らしくてとっても聡い子だ。セナのためにも、毎日たくさん話しかけてあげてくれ」

 そう言って兄様の頭を優しく撫でた平凡男が、俺の顔を覗き込んだ。

 「瞳の色も、シュヴァリエにそっくりだな」
 「……はい」
 「そんなに落ち込むことじゃないだろう? お前が不安そうな顔をしていると、セナにも伝わってしまう。まだ産まれたばかりだが、この子もきっと二人に似て聡い子に違いない」

 励ますように声をかけた人物は、シュヴァリエ父様の父親だった。
 父様にはまったく似ていないし、一度目の人生でも顔を合わせたことはなかった。
 父様からは『父親とは交流することはなかった』と聞いていた俺は、かなり驚いていた。

 「……すまないな。お前たちは、たぶん私の元妻の先祖に似ているんだ。アレと婚姻すべきではなかった……。だが、そうなるとシュヴァリエが誕生していなかったわけだから──」
 「っ、父上は……母上を愛していたのでは?」
 「ん?」

 恐る恐る尋ねた父様は、俺と同じ色の瞳を激しく揺らしていた。
 聞くつもりはなかったのかもしれないが、咄嗟に口にしていた、といった感じだ。
 そんな息子を見て、困ったように笑ったお祖父様は、ミルクを飲ませようと、俺を優しく抱き上げた母様に視線を向けた。

 「お前は、我が子を抱くこともせずに逃げ出した人間を、心から愛せるか?」
 「っ…………」
 「つまりは、そういうことだ」

 唖然とする父様の肩を、ぽんと叩いたお祖父様。
 かつては絶縁状態だった父親との仲も、良好に見える。
 それに、なかなかいい奴じゃないか……。

 「まだ話してなかったのかよ……。シュヴァリエ様が悩んでいることを知らなかったのか?」
 「うっ……。あ、ああ。アレのことはすっかり忘れていた」
 「ハァ、しっかりしろよ」

 態度のデカイお祖母様が、ガミガミとお説教をしている。
 素直に息子に謝罪するお祖父様は、部屋の隅っこで小さくなっていた。
 父様の話だけを聞いていた俺は、お祖父様は冷酷な男だと勘違いしていた。
 見直していると、「遅くなった」と俺たちのもとへ、金髪の男が小走りでやって来た。

 「ごめんな、セナくん。エルヴィスおばあちゃまに、なにか言われなかったかい? 数年前から、頭の病気になってしまってね~。おかしなことを言われても、聞き流していいからね~」

 そうゆっくりと話して、ニコニコしているオースティンお祖父様。
 ぎゃーぎゃー騒ぐお祖母様は、悪魔のような顔で怒っているが、俺は一瞬で泣き止んでいた。


 この中で一番怒らせてはいけないのは、俺の顔を見て穏やかに笑っているこの男だ。



 『リュセをっ! 私の大切な息子を、返せっ!』



 悪の元凶に掴みかかり、錯乱状態に陥ったオースティンお祖父様を思い出す。
 叫ぶ二人の男が揉み合いになる。

 ブチギレているひ弱なお祖父様は、体格の良い異世界人を、真っ暗闇の中に突き落としていた……。












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