婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?

ぽんちゃん

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婚姻後

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 自国では一切相手にされず、小さな商会を細々と経営していた私──ガスパールは、仕事で訪れていたミラジュー王国に滞在中に、第一王子殿下に呼び出されていた。

 「エレベーターとやらを作った天才は、お前だな?」
 「……はい。ですが、私だけの功績ではなくっ」
 「そんなことはどうでもいいっ!」

 語気鋭く告げたルーク殿下の圧に、私は口を閉ざした。


 「お前を呼び出した理由はひとつ……。異世界へと繋がるエレベーターを作って欲しい」


 豪華な机に肘を置き、私を見据える紫の瞳は真剣そのものだ。
 きっとこの場に亡くなった祖父がいたならば、一も二もなく頷いていたことだろう。
 だが、私は違う。

 「……異世界、ですか? さすがにそれは無理があるかと。なにせ私が作ったエレベーターは、一階から五階までの移動が限界でして」
 「そんなことはわかっている」

 フンと鼻を鳴らしたルーク殿下は、そこそこの頭を持っている。
 説明せずともわかっているのに、無理難題を告げられて対応に困るのだが……。

 いつか呼び出される日が来るかもしれないと事前に忠告を受けていた私は、一国の王子を前にしても普段より冷静だった。
 
 「お前は、ライトニング公爵家にエレベーターを作ったのだ。もちろん、あの麗しいリュセ様を知っているだろう?」
 「はい」
 「リュセ様はな、誰にでも分け隔てなく接する女神だ。現に、この私ではなく、を愛している。目を合わせることも恐ろしい男と、子まで産んでいるんだ。きっと異世界人は、皆リュセ様のように、容姿だけで相手を判断することのない者ばかりなのだ」

 恩人を侮辱されて、ひくりと頬が強張る。
 だが、さして気にした様子のないルーク殿下は、熱く語り続けていた。

 「つまりだ。我が国に異世界人が増えれば、醜男共も幸せになれる確率が上がる。そして、独身男を救済する事ができる。私は、この国の民のことを思ってお前に頼んでいるんだ……。何年かかってもかまわない。異世界へと繋がるエレベーターを作って欲しい」

 さも、国民のためだと語るルーク殿下を、以前の私なら国王に相応しいと思っていただろう。
 だが、ルーク殿下の本当の目的を察している私は、丁重にお断りしていた。

 「~~っ! なあ、頼む! ガスパールッ! 金ならいくらでも払うっ!」
 「であれば、王妃様に話を通してもよろしいですか?」
 「っ……そ、それは無理だ。母上はどうしてか反対しているんだ」
 「でしたら……」
 「っ、だがっ! 私も、異世界人の伴侶がほしいのだっ!!!!」

 鼻息が荒くなるルーク殿下が、とうとう本当の願いを口にした。

 先程までの威厳のある態度は何処へやら。
 子供のように駄々を捏ね出したルーク殿下に泣きつかれるのだが、私は「申し訳ありません」と繰り返していた──。





 日が暮れる頃に、ようやく我儘王子に解放され、疲労困憊で馬車に乗り込む。
 ミラジュー王国の民でなくてよかったと思ったのは、今回が初めてだ。

 「よう」
 
 軽く片手を上げた人物に、私は目を見開く。
 ニッと片方の口角を上げている顔が魔王のように恐ろしいのだが、私の尊敬するお方だ。
 馬車の中で待ち構えていたお方の薄紫色の双眸に見据えられ、ルーク殿下といる時よりも緊張してしまう。

 「なんとか諦めてもらう事ができました」
 「ククッ、よくやった」

 細身だというのに、やけに威圧感があるお方は、サルース商会の重役──エルヴィス様だ。

 「約束の品だ。奥さんとの結婚式には、俺も招待してくれよ?」

 成功報酬として、とんでもない品物を受け取った私は、歓喜に体を震わせていた。

 はたから見れば、私は魔王に魂を売った男に見えるかもしれないが……。
 ライトニング公爵家の幸せのためなのだ。

 「私なんかが、異世界へと繋がるエレベーターを作れるわけがないというのに……。まさか、本当にルーク殿下に呼び出されるとは……」

 なにも答えずにフッと口角を上げたエルヴィス様は、適当なところで馬車を下りる。
 そして振り返った。

 「結婚式にはリュセも連れて行くからな? 従業員には内緒にしておけ。サプライズだ」
 「~~っ!! ありがとうございますッ!!」

 背を向けて、ひらひらと手を振るお姿が見えなくなっても、私は頭を下げ続けていた。








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