76 / 100
婚姻後
3
しおりを挟む薔薇が美しく咲き誇る季節を迎え、赤子の泣き声と共に、僕は壮絶な痛みから解放されていた。
「よく頑張ったな、リュセっ」
綺麗な泣き顔を見せてくれた僕の最愛の旦那様が、優しく声をかけてくれる。
昨夜から何十時間とずっと握り続けてくれていた手は、今も僕の汗ばむ手を離すことはない。
我が子を抱くよりもまず、僕の体調を心配してくれるシュヴァリエ様に、僕は誰よりも愛されていると実感していた。
「シュヴァリエさまっ……。だいすきっ」
「っ、ああ、私もだ」
愛してると囁いたシュヴァリエ様が、そっとキスをしてくれる。
疲れ切っていた僕だけど、一瞬で元気になった気がした。
そんなラブラブな僕たちに歩み寄る人が、産まれたばかりの赤子を抱いている。
ブラウンの瞳から大粒の涙を流すジャスティン様は、この度おじいちゃんになった。
感極まっているのか、あうあうと口を動かすだけで、声がまったく出ていない。
くすりと笑ってしまった僕。
「シュヴァリエ様、抱っこしてみてください」
「っ……あ、ああ」
ふにゃふにゃと泣いている赤子を、そうっと受け取ったシュヴァリエ様。
抱き方がすごくぎこちないと思っていると、カッと目が見開かれた。
「っ、リュセにそっくりだ!!」
よかった、よかったと繰り返すシュヴァリエ様に、見守っていた使用人たちが「おめでとうございますっ!」と声をかけた。
「~~っ、めちゃくちゃ可愛いぞ!!」
「ああ!! 本当だっ、リュセにそっくりだ」
ここ一ヶ月。
ずっと僕に付き添ってくれていたエルヴィス母様とオースティン父様は、すでに僕たちの子供にメロメロになっている。
「なんと愛らしいのでしょう……。瞳も神秘的な色なのでしょうか」
最近は、寝てばかりいた僕のフォローをしてくれていたセバスさんが、うっとりと呟く。
早く瞳の色も知りたいとばかりに、赤子に熱視線を送っていた。
シュヴァリエ様から我が子を受け取った僕は、目をぱちぱちとさせる。
「…………かわいい」
無事に第一子を出産したのだけど、僕はしばらくぽけーっとしていた。
どことなく僕に似た平凡顔の子は、異世界人の血が混じっているからか、みんなには美人に見えているらしい。
僕はずっと、シュヴァリエ様に似た美形が産まれてくると確信していたんだ。
なんでって言われてもわからないけど……。
でも成長したら、きっとシュヴァリエ様に似ている部分も出てくるだろう。
赤子の顔は変わっていくものだから。
「この子の名前……シオンにしませんか?」
「ああ。だが、セナじゃなくていいのか?」
「はいっ。穏やかな泣き声だから、シオンがぴったりだと思います」
星穏と書いて、シオン。
シュヴァリエ様と一緒に考えた名前だ。
そして今日からシオンは僕が育てる。
ミラジュー王国では乳母が子を育てるのが一般的だけど、僕はそれを拒否した。
幼い頃のシュヴァリエ様は、自身が醜い容姿だと教えられていなかった。
その時はまだ後継者扱いをされていたから、侮辱されるようなことはなかったみたいだけど……。
使用人の態度で、なんなとくわかっていたそう。
そして両親に放置されていたシュヴァリエ様は、かまってほしくてたくさん悪いことをしたそうだ。
でも、どんな悪さをしても許されていた。
唯一心を許していた優しい乳母が、陰ではシュヴァリエ様のことを『かわいそうな子だから』と庇ってくれていたから……。
その時に、乳母が優しく接してくれていたのは、同情されているだけだったんだと気付いた。
乳母のことを本当の母親のように慕っていたから、とても傷付いたんだ。
だから、産まれてくる子は僕が育てたいと話していたんだ。
どれだけ醜い子が産まれてきたとしても、美醜が逆転している僕なら心から愛せる。
というか、不細工でもシュヴァリエ様との子なら愛せる自信しかない。
そういうわけで、シュヴァリエ様との仲もより深まっていたわけだけど……。
「なんて可愛いんだ、シオン。小さなリュセだ」
僕の麗しい旦那様が、我が子を独占している。
子育てをする自信がないと話していた人が、誰よりもシオンにメロメロになっていた。
185
お気に入りに追加
3,832
あなたにおすすめの小説
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる