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婚約編
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しおりを挟む「もしみんなを侮辱する人たちがいたら、言ってあげて? 『今日の主役に髪をセットしてもらったんだぞ! 文句あるのか?』 って」
(っ……だからリュセ様が直々に髪を結ってくださったのか)
力強く頷いた俺たちだが、ツンと顎を出して告げたリュセ様の可愛さに、もれなく全員悶えていた。
そうこうして、ミラジュー王国では下の下のブサイクが下の上くらいになって戻って来ると、招待客がざわつき始めた。
「普段は目も合わせないくせに、みんな俺たちの髪型に目が釘付けだな?」
注目されることに慣れていない俺たちだが、リュセ様のおかげで胸を張っていた。
そしてなんだかんだでシャールにゾッコンの兄が、俺を見つけてすぐに駆け寄って来た。
そっぽを向くシャールに苛立つレオンハートは、俺たちを睨みつける。
「フンッ。なんだその髪型。ちょっと髪をいじったくらいで、俺より美形になったとでも思ってるのか? 恥ずかしい奴だ」
「……感想どうも。リュセ様に伝えておく」
いつもなら無視していたが、言い返してやる。
俺は侮辱されることには慣れているが、リュセ様が一生懸命髪を結ってくださったんだ。
髪型を馬鹿にされるのだけは、どうしても許せなかった。
呆気に取られるレオンハートを見下ろすと、リュセ様に告げ口してほしくないからか、ぷるぷると震えていた。
「わざわざリュセ様に言いつけるだなんて、器の小さい男だっ!」
「言いつけるわけじゃない。俺たち全員、今日の主役に髪を結ってもらったんだ。感想を伝えるのは当たり前のことだろ?」
「「「っ……」」」
間抜け面で口を開けているレオンハートを初めて見た俺は、面白くなって小さく吹き出した。
くつくつと笑っていると、様子を見ていた人々に囲まれていた。
「わ、私たちはなにも言っていないよ?」
「そうだっ。さすがリュセ様だな、俺も髪を結ってもらいたい」
「ああ。髪が複雑に編み込まれているけど、どんな風にやってもらったんだ?」
斬新な髪型に興味津々な兄の友人に、質問攻めになる俺。
普段は妖精族に話しかけられることはないのだが、初めて友人のように会話をすることが出来た。
そして俺を見下していた兄に、初めて心から謝罪された。
いつもは存在感を消すことだけを意識していたし、待機の時間はとにかく長く感じて、地獄のようだった。
でも今日は俯くことなく、あっという間に時間が過ぎていて、俺は妖精族の前でも笑っていたんだ。
すべては、リュセ様が俺たちに勇気をくれたおかげだった。
初めての経験ばかりでふわふわしていた俺たちは、サルース商会の長と現れたリュセ様の花嫁姿を見て、あまりの神々しさに息を呑んだ。
王族や限られた者だけが結婚式を挙げることのできる、セントリバーサル大聖堂に本物の女神が降臨したと思ったのは、俺だけじゃなかった。
深紅のバージンロードは、純白のドレスをより一層美しく見せていた。
そしてステンドグラスに太陽光が差し込み、七色の光がリュセ様を照らす。
ビーズや小ぶりの宝石があしらわれたベールが、光を受けてキラキラと輝き、目が離せない。
バージンロードいっぱいにベールを広げて歩くリュセ様に、招待客が感嘆のため息を漏らした。
そして誓いのキス──。
ここは二人の愛を見せつけるように、濃厚な口付けをする場面なのだが……。
ちょん、と触れるだけの口付けだった。
どれほど激しい口付けなのかと想像していた俺たちは、予想外の展開に目が点になる。
だが……。
額を合わせたふたりは、至極幸せそうに微笑みあっていた。
「~~っ、可愛すぎるだろうッ!!」
リュセ様に思いを寄せていた、この国で一二を争う見目麗しいルーク殿下が叫ぶ。
その声で恥ずかしそうに頬を染めたリュセ様が、さりげなくベールで顔を隠した。
慎ましやかな女神の姿に、招待客全員が胸を撃ち抜かれていたことは言うまでもない。
こうして、世界一素敵な花嫁は俺たちの団長と結婚した。
第二騎士団員はもれなく全員失恋したわけだが、女神の幸せいっぱいの笑顔を見ることができて、ブサイクでも愛のある結婚ができるのだと希望を見出せることとなった。
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