婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?

ぽんちゃん

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婚約編

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 ──休日のライトニング公爵邸にて。

 「猪狩り、完了しました」
 「ああ、ご苦労だった」

 この度、団長に就任したお方に報告をした俺──ルドルフ・グレイは、「また狩りに行ったんですか?」と、なにやら勘違いをしている美人に見つめられて、ほんのりと頬を染めた。

 ちなみにそのお方は、ブサイクな俺をなぜか警戒している団長の膝の上に乗っている。

 (……死ぬほど羨ましい)

 休日にもかかわらず招集されているのだが、俺たちは喜んで女神の住まう屋敷に足を運んでいた。

 本日、庭園で開かれている和やかなお茶会に参加している男共は、美しく咲き誇る花が枯れてしまいそうな程のブサイク集団だ。
 その中で、一人だけ飛び抜けて美しいお方が輪の中心にいる。
 誰にでも分け隔てなく接してくださる女神、リュセ様だ。

 「ルドルフくんも座って」
 「っ、はい。ありがとうございます」

 しっかりと俺の目を見て話したリュセ様に微笑みかけられるだけで、俺の心臓が暴れ出す。
 遠慮せずに隣に座ったことで、団長の目が俺をロックオンしているが、今は無視する。

 凶暴な大熊を前にしても、冷静に首を掻っ切ったヤバイ男だが、愛する人の前ではなにもできないとわかっているからだ。

 「シュヴァリエ様。来客です」
 「…………」

 家令に呼ばれた団長だが、動こうとはしない。
 すると、すっと膝の上からおりたリュセ様が、団長の頬にキスをする。
 いつもしているのだとわかる、とても自然な感じだった。

 「みんなと待ってますねっ!」
 「っ、ああ。リュセは無理をしないで、辛くなったら部屋で休んで」

 女神の一言で、団長が重い腰を上げる。
 職務中は表情を変えることのない人だが、今は幸せいっぱいだと顔を書いてあった。
 苦労してきた団長の幸せを嬉しく思うが、実際には羨ましい気持ちの方が強いことは内緒だ。

 団長が席を外し、リュセ様にどんな猪を狩ったのかと聞かれた俺は、小さく笑った。

 「リュセ様に危害を加えようとした、サマンタのことですよ?」
 「へ? サマンタ様?」
 「はい。団長から、リュセ様が無事に出産するまでは、お茶会に参加させないようにと言われております。……本人には、永久に参加させないと伝えてありますが」
 「そうなの?!」
 「はい。ですが、もしリュセ様がサマンタをお許しになるのなら、その時は招待状を出しても良いと仰られていました」
 「……そっか。サマンタ様は、女神に選ばれたくて駄々を捏ねていただけだしね? 謝罪に来たら許すつもりだよ」

 やはりリュセ様ならそう言うだろうと思っていた俺は、頷いた。
 でもその後の発言で、デレデレしていた俺たちは揃って目を丸くする。

 「二度とシュヴァリエ様を侮辱しないと誓ってくれるなら、僕は仲良くするつもり」
 「……団長を、ですか?」
 「うん。あの日のお茶会で、シュヴァリエ様を侮辱するような発言をしたんだ。僕もプッツンきちゃって、言い負かしたんだけど……。この事は、シュヴァリエ様には言わないでね?」

 団長を傷付けたくないからと、俺たちにお願いするリュセ様は、本物の女神に違いない。

 あまり見つめすぎないように紅茶を飲むが、リュセ様が「あっ」と可愛らしい声を上げた。

 「ルドルフくんもつけてくれてるんだ」

 いつまでも見ていられる美しい黒い瞳は、俺の左手首を見ていた。
 「もう外してもいいんだよ?」と言われたのだが、俺は笑顔で首を横に振った。

 狩猟大会の際にいただいたお守りを、今も肌身離さず身につけているのは、俺だけではない。

 「大切にしてくれて嬉しいっ。来年はもっと凝ったものにするね?」
 「っ、来年もいいんですか!?」
 「ふふっ、うん! でも、恋人ができた時は教えてね? 僕のお守りは必要なくなるから」
 「俺は、一生恋人は作りませんっ!!」

 勢いよく立ち上がった俺は、告白まがいなことを告げていた。
 きょとんとしているリュセ様には、俺の想いは届いていないだろう。
 団長との仲を裂くつもりはないからそれでいい。

 そしてすぐに「作れませんの間違いじゃないのか?」なんて、仲間たちに揶揄われる。
 爆笑されるのだが、ブサイクだからと、人前では笑わないようにしている俺たちは、リュセ様の前でだけは笑ってもいいんだ。



 リュセ様への密かな恋心を抱き、生涯独身を貫くつもりでいた俺は、十六年後に初恋の人の親族になる幸せな未来が待っていることを、まだ知らない──。














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