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婚約編
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しおりを挟む第一発見者であったクレメントは、すぐに国王陛下に報告した。
擦り傷だったけど、怪我をした仲間を心配していたため、その時はまだ不正行為があったことに気付いていなかったらしい。
「ライトニング次期公爵は、狩りを妨害されたというのに、調査が始まるまでは黙っていたんだ。凶暴な大熊と遭遇したこともあって、忘れていたと話していたが……。私は当初、第二騎士団の仕業だと思っていたことが、恥ずかしくて仕方がないっ!」
声を荒げたクレメントは、がっしりとした体を震わせる。
醜男は、今までと同様に、幼稚な嫌がらせをしてきたとしか思っていなかったらしい。
その事実を知り、第一騎士団の皆が罪悪感を覚えることになった。
「誰であろうとも不正は許さない。ただ、まさかワルモンドが原因だったとは思わなかったが……」
「う、嘘だっ!! ワルモンドから直接聞かないと、僕は信じないぞっ!! そ、それに、ワルモンドがトラップを仕掛けろなんて命令していないんでしょ!?」
「ああ。だが、ワルモンドも処罰対象だ」
「っ、なんで!!!! 狩りを妨害しようとしたのは悪いことだと思うけど、ワルモンドは関係ないじゃないっ!」
興奮してフーフーと息をする僕とは対照的に、クレメントは落ち着き払っていた。
「落ちこぼれ共に詳しく話を聞けば、毎年ワルモンドに獲物を譲っていたらしい。不正していたのは、お前の愛する恋人の方だったってわけだ」
淡々と告げたクレメントに、僕は開いた口が塞がらなかった。
「それからお前は、一年間の謹慎処分だ。来年も女神にはなれないな?」
「っ、ふざけるなっ!! 来年は必ず──」
「オイオイ。私の話をちゃんと聞いていたか? 処罰が下されずとも、一途な赤毛の暴れ猪が女神になれる可能性はゼロなんだよ。だって不正を働いたワルモンドは、二度と狩猟大会には参加出来ないからな?」
毎年優勝していたワルモンドが、狩猟大会の参加資格を永久に失った。
全面的にワルモンドが悪い。
でも、僕が騒いだせいで……。
醜男の不正を暴くどころか、僕は自慢の恋人の悪事を暴いてしまったんだ。
公の場であれだけの騒ぎを起こしたのだから、僕の恥ずかしい噂は、既に社交界で面白おかしく話されているはず。
想像しただけで血の気が引いた。
……もう、ワルモンドは捨てよう。
いくらクリプス公爵家だとしても、出世の道は閉ざされている。
すぐに切り替えた僕は、目の前にいる元恋人に微笑みかけた。
クレメントがいつも愛らしいと言っていた笑みを浮かべてみせると、昔のように優しく笑いかけてくれた。
「不正を許さないクレメントは、やっぱりこの国一番のいい男だよ」
「ククッ、今更気付いたのか? 私は当たり前のことをしただけだ」
「ねぇ、クレメント……。僕とやり直さない?」
クレメントの手を握る僕は、上目遣いでお目目をぱちぱちとする。
すると、しっかりと握り返しくれた。
ちょっと僕が下手に出ると、みんなコロッと落ちてくれる。
仕事は出来ても、ちょろい男なんだ。
「お前のおかげで、私は予定より早く副団長の座に就任することができた。ありがとな?」
それだけを伝えに来たと、雑に手を払われた僕は絶句する。
ハンカチでゴシゴシと手を拭ったクレメントは、笑いながら去っていった……。
◇
一年間の謹慎処分を下された僕は、特別な存在であったことと、ワルモンドたちの不正行為を発覚させたお手柄として、謹慎期間は三ヶ月間に減刑されていた。
でも、リュセ様が開くお茶会の参加資格を永久に失った。
それが騒ぎを起こした僕への、本当の罰だった。
つまり、子を宿すことができる者たちにハブられたことを意味する。
今までは、僕が気に食わない子がいたら、その相手だけをお茶会に招待せずに、仲間外れにしていたのに……。
友人からは、因果応報だって噂されているけど、意味がわからない。
そして、大熊の被害に遭っていた者たちを救ったヒーローとなった醜男が、第二騎士団の団長に就任することとなり、ワルモンドは降格処分。
醜男なんかとは口も聞きたくないと思っていたのに、今はどうにか話しかけてはくれないかと必死になるという、屈辱的な日々を送る羽目になっていた。
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