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婚約編

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 貴族専用の豚箱に放置されて、一週間。

 今年も社交界の中心になるはずだった予定を、醜男共に狂わされた僕は、粗末な餌が乗っている皿を叩き割っていた。

 それなのに、誰も部屋に入って来ない。


 「ちょっと……。なんで誰も僕に会いに来ないんだよおおおおおおーーーーっ!!!!」


 放置されるという、初めての屈辱を味わう僕は、声が枯れるまで叫ぶ。

 「フー、フー、フー、フゴッ…………」

 静かな部屋に、僕の鼻息だけが響いていた──。



 波乱の狩猟大会は、醜男たちの不正が暴かれるどころか、今年の女神になったリュセ様が懐妊したという、おめでたいニュースで幕を閉じていた。

 黒目黒髪の異世界人は、第二騎士団の勝利の女神であり、醜男たちの希望の象徴となっている。

 ……確かにリュセ様は、女神のように美しい。

 品があるし、僕たちとは違って控えめなところも魅力的に見えているんだと思う。

 でも、男を見る目だけはないんだ。
 本当に残念で可哀想な人。

 誰の目から見ても、ワルモンドが優良物件。
 それなのに、ミラジュー王国一の醜男と婚約したんだ。
 異世界人ってだけでも目立っているのに、さらに注目を浴びたいらしい。

 僕の恋人に色目を使うならボコボコにしてやるつもりだったけど、無関心と言っていいほど接触することはなかった。
 僕のライバルになる気はないみたいだったから、仲間外れにはしなかったけど……。
 
 「醜男と婚姻するからって、なんでこんなにもてはやされるんだよっ!!!!」
 「それならお前も巨人族と婚姻したらどうだ?」
 「っ…………」

 ぐうの音もでない僕をハッと鼻で笑ったのは、僕の様子を見に来た監視役の男──クレメント。
 第一騎士団に所属している騎士だ。

 容姿はそこまで美しくはないけど、紫色の瞳が魅惑的なラード侯爵家の嫡男。
 ワルモンドをライバル視していた人物であり、僕の元恋人だ。

 僕がワルモンドだけを愛することを誓ってからは、一切接触して来なかった。
 だって最後の最後に、僕はコイツの金を搾り取ってから、捨てたのだから……。

 「少しは落ち着いたらどうだ?」

 やけに穏やかに告げたクレメントは、紅茶を用意して椅子に腰掛ける。
 若干気まずいのだけど、クレメントは自ら僕の監視役を引き受けたらしい。
 きっとこっぴどく振られても、可愛すぎる僕に未練タラタラなんだ。

 「お前の話していた通り、今回の狩猟大会で不正行為が発覚した」
 「っ、やっぱり!!!!」
 「第一騎士団の落ちこぼれ共のな?」
 「…………は?」
 「いやあ~。お前が暴れてくれなきゃ、私も気付くことができなかったよ。アイツらは妖精族の恥晒しだ」

 語気を強めたクレメントに驚いた僕は、その場でビクリと体を震わせた。
 堅物なんだけど、優しい男が珍しく怒っている。

 僕の前ではいつもニコニコしていたのに……と思っていると「まあ、座れよ」と、上から目線で指示を出してきた。
 イラッと来たけど、暴れまくって疲れていた僕は、大人しくクレメントの対面に腰掛ける。

 「ライトニング次期公爵の狩りを妨害するために、お粗末なトラップを仕掛けていたんだ。それに自ら引っかかっているところを我々が発見した」
 「っ、馬鹿でしょ……。なんでそんなことしたんだか……」
 「ククッ、それがなあ~。ワルモンドが、と宣言していたからだそうだ」

 僕はなにを言われたのかすぐに理解できなくて、しばらく言葉が出て来なかった。

 そんな僕を眺めてくつくつと笑うクレメント。
 そこでようやく、この男は僕に未練なんてないことを感じ取ってしまった。

 「ワルモンドが優勝してリュセ様の伴侶になったら、アイツらも伴侶になれるように計らうと約束していたらしい」
 「っ、」
 「それで猪を狩ろうとしたが、怖気付いたのだろう。それなら、ライトニング次期公爵が狩りを出来ないようにしたらいいと考えたようだ。男の風上にも置けない連中だ」

 ダンッと机を叩いたクレメントは、怒りをあらわにしていた。

 それでもワルモンドは、トラップを仕掛けろとまでは命じていない。
 首の皮一枚繋がった状態だけど、いくら醜男であろうとも、相手はライトニング公爵家の人間。
 ただでは済まないことは、僕にでもわかった。






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