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婚約編
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しおりを挟む「低身長で美しい容姿だろう? だから、第一騎士団は別名、妖精族と言われている」
「…………妖精に失礼な気がする」
僕の独り言が聞こえていたようで、口元を隠すシュヴァリエ様が必死に笑いを堪えている。
妖精ではなく、斧を持った鍛冶屋の方が近いと思ったことは、内緒にしておこう。
僕たちが仲良く話している間に、ワルモンド様も激昂し始めて大騒ぎだ。
でも、高速パンチを繰り出したサマンタ様が、自慢の恋人を跪かせていた。
……サマンタ様が狩りに参加した方がよかったんじゃ?
第一騎士団が事態を収拾すべく動き出し、シュヴァリエ様はさりげなく僕を守る体勢に入っていた。
今は王族の方々を守った方がいいと思ったのだけど、内心喜んでしまう僕は、シュヴァリエ様にぴったりとくっつく。
「シュヴァリエ様は、間違いなくエルフです!」
「エルフ?」
「はいっ。長寿で、何百歳になっても若々しいんです。それはそれは美しい妖精族ですよ?」
「っ…………リュセには、私が妖精族に見えているのか」
なんとも嬉しそうに呟いたシュヴァリエ様は、ほんのりと頬を染めていた。
でもキラキラと輝いていた碧眼は、すっと僕の背後に向けられる。
鋭い目付きになったシュヴァリエ様の視線の先には、こちらに突撃しようとしているサマンタ様がいた。
「こんな結果は認められないっ!! 公爵家の権力を使って、不正したに決まってるんだからああーーーーっ!!!!」
「リュセ様を守れっ!!」
第二騎士団の王子様集団が軽やかに壇上に上がり、僕たちを囲む。
距離はあれど、赤毛の猪に見えた僕はぶるりと震えて、しゃがみこんでいた。
「リュセ、大丈夫か?! 発作が?」
とにかくお腹を守る僕は、焦ったように声をかけてくれたシュヴァリエ様に抱き上げられていた。
みんながいてくれたから、僕に危害が及ぶことはないと思っていたけれど、咄嗟に体が動いていた。
愛の結晶を守るために──。
暴れ続けるサマンタ様が拘束された姿を確認した僕は、なんとかこくりと頷く。
「すぐに屋敷に帰ろう。優勝したことに浮かれて、リュセを連れ回して……危険に晒し──」
「心配させてごめんなさい。僕は大丈夫です」
謝罪しようとする口に、僕はそっと手を当てる。
きょとんとした可愛い表情になったシュヴァリエ様が、目を瞬かせた。
「神様からの贈り物を守らないと……って、必死になっただけなんです」
本当なら、安定期に入ってから話した方が良いのかもしれないと思っていたけれど……。
シュヴァリエ様があまりに心配するものだから、僕はサプライズで伝えていた。
くわっと目を見開いたシュヴァリエ様の体が、カタカタと震え出す。
喜んでくれていると思うけれど、無言だ。
……僕が重くて震えているわけじゃないよね?
「副団長、大丈夫ですか?」
「っ、リュセ様になにか……」
慌て始めたイケメンたちが、ひゅっと息を呑む。
僕だけを見つめ続ける碧眼から、ぼとぼとと、とめどなく涙がこぼれ落ちているから……。
「ついさっきわかったことなんです。本当なら、もう少し様子を見てから話すつもりだったんですけど……」
「っ……いや、話してくれて、ありがとうっ。やはり、すぐに休まないとっ。無理をして、リュセになにかあったら……私は……」
オロオロし始めたシュヴァリエ様の首に腕を回した僕は、震える唇にキスをした。
「落ち着いてください、シュヴァリエ様。お腹の子がびっくりしちゃいますよ?」
「「「っ…………」」」
にっこりと微笑んだ僕にぶわっと頬を染めたのは、シュヴァリエ様だけではなかった。
みんなは僕たちが既に結ばれているとは思っていなかったのか、驚愕している。
でもすぐに喜びの声が上がった。
「おめでとうございますっ!! は、早く、リュセ様を連れて帰ってくださいっ!!」
「そうですよ! なにかあったら大変ですっ! 誰か、医者を呼べっ!」
今度は興奮するイケメン騎士たちがオロオロし始めて、中には号泣している人もいた。
「いや、お医者様にはもう診てもらっているんだけど……」
「今すぐ帰るぞ! お前たちは護衛をしてくれ」
「「「はいっ!!」」」
シュヴァリエ様が僕をお姫様抱っこしたまま格好良く指示を出し、一致団結しているイケメン集団に守られる僕は、丁重に運ばれていた。
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