婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?

ぽんちゃん

文字の大きさ
上 下
60 / 100
婚約編

22

しおりを挟む


 「去年はうさぎを八羽だったけど、今年は十羽狩ると言っていたよ?」


 ふふんと得意げに答えた情熱的な真っ赤な髪色の青年が、太めの小指を立てて紅茶を飲んだ。

 「十羽も?! それなら、今年も優勝はワルモンド様で決まりじゃない!」
 「カルロスも頑張るって言ってたけど、さすがに十匹は厳しいかなぁ~? でも、カルロス以外に、僕の恋人は五人参加してるんだよね~」
 「凄いじゃないっ! それなら、優勝はワルモンド様だけど、今年の女神はミカエルね!」
 「っ、それはまだわからないよ! ワルモンドはずっと腕を磨いてきたんだ。兎を十五羽狩るかもしれないしね? 僕のために──」

 交流を深める場で、煌びやかに着飾った八名の青年が、にこやかに笑っている。

 いよいよ狩猟大会が始まり、僕は年齢の近い人たちと集まって、お茶をしているのだけど……。

 参加者が獲物を追う中、こちらはマウントを取り合う自慢大会が始まっていた。

 「みんな面白いですよね? 今年の女神様は、リュセ様に決まっているのに……」

 僕の隣でくすくすと笑ったのは、垂れ目が可愛らしいルマンド伯爵令息。
 若草色の瞳が印象的な犬系男子のシャール様だ。

 さっきから、他の人をよいしょしているだけで、特に自慢話をしていなかったシャール様は、初参加の僕に色々と教えてくれている。

 子を宿すことが出来る人たちは、マウントを取り合うけれど、ギスギスした感じはない。
 数少ないからか、比較的仲良しなのだと思う。

 「そういえば……。ライトニング次期公爵も張り切っていたよね?」

 にこっと笑ったのは、去年の優勝者であるワルモンド様の恋人──サマンタ様だ。
 タバサ子爵家のご子息で、社交界では高嶺の花であった公爵子息との身分差の恋を実らせた人。
 赤い髪色が目立つ、美男子カップルだそうだ。

 シャール様の話によると、僕とシュヴァリエ様が結ばれるまでは、サマンタ様たちが社交界の噂の的だったらしい。

 「腕に自信があるみたいだけど、第一騎士団のスター集団と同じ狩場でしょう? 運が悪かったと思うしかないね」

 棘のある言い方をするサマンタ様に、他の参加者たちは無言になる。
 今はまだ平民だけど、来月には公爵夫人になるからか、僕の顔色を窺っていた。


 「でも、どんなを狩ってくるのか、気になるなぁ~? 顔がぐちゃぐちゃだったりして」


 にこにこしていた僕だけど、シュヴァリエ様を侮辱されたことに気付いて、ピクッと頬が引き攣ってしまった。

 「なんてことを──ッ、」

 いち早く、非難する声を上げたシャール様。

 僕の目には可愛く見えているから、このメンバーの中では、きっと容姿は醜い部類に入る。
 だからあまり目立たないようにしていたのだろうけど、今は僕のために怒ってくれていた。

 そんな優しいシャール様の硬く握られた手に触れた僕は、真正面に座るサマンタ様を見据えた。
 

 「僕も楽しみです。、森の主を狩るとお約束してくださいました。──」


 有能なセバスさんに指導してもらっている僕は、いつも以上に優雅に紅茶を飲んで、微笑んだ。

 さっきまでイケイケだったサマンタ様が、なにも言い返せずに沈黙する。

 マウントを取り合うつもりはさらさらない。
 ただ、シュヴァリエ様を侮辱するなら、相手が誰であろうと受けて立つ。

 内心メラメラしている僕の隣から、熱い視線が突き刺さる。
 シャール様が「ほうっ」と蕩けた声を上げると、まあっ、さすがですっ、と他の方々が次々と感嘆の声が上げ、静まり返っていた場が賑やかになった。

 「森の主ってことは、大熊!?」
 「過去に熊を倒した例はないですよ!?」
 「えっ、そうなんですね? シュヴァリエ様は、森の主に遭遇出来なくても、鹿を狩ると仰っていました。最悪、鹿肉を期待していてと……」
 「っ!! 次元が違う……」

 シュヴァリエ様を見直すような発言をする彼らに、僕も楽しく会話をする。

 第一騎士団の人たちが、兎を何羽狩ってこようとも、本気を出したシュヴァリエ様は、誰にも負けないと信じている。
 それでも無理をしないかと心配している僕は、とにかく無事に帰って来てくれることを祈っていた。












しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

処理中です...