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婚約編
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しおりを挟むなんだか誤解しているシュヴァリエ様にお姫様抱っこをしてもらい、憧れのシチュエーションに興奮気味だった僕。
でも、『エレベーター』の言葉に、僕の思考は停止していた。
「リュセがよく話してくれていただろう?」
「……は、はい」
こくりと頷くと、シュヴァリエ様が僕を床に下ろして、手を繋いでまた歩き出す。
「リュセのことをもっと知りたくて、異世界人についての文献を探し回っていたんだが……。なかなか見つからなくてな? ただ、その時に『エレベーター』に似たものを使用している国があったんだ」
「っ、」
見つけた時は感動したと、シュヴァリエ様が目をキラキラとさせている。
でも僕はそれ以前に、「リュセのことをもっと知りたくて──」と、さらっと告げた甘い言葉に感動していた。
だって、文献を探し回っていたということは、僕に会えない時間も、ずっと僕のことを考えてくれていたということだ。
すごく、愛されているっ。
僕が思っている以上に……。
僕の胸が熱くなっている間に、シュヴァリエ様も熱くなっている。
エレベーターの話についてだけど。
「すぐに職人にコンタクトを取ったら、他国から駆けつけてくれたんだ。普段は荷物の運搬用に使っているらしいが、揺れを最小限にして、人が乗れるように設計して作ってもらった。私も何度か乗って安全性を確かめている」
だから安心していいと告げたシュヴァリエ様に、僕は開いた口が塞がらなかった。
「そ、それって、普段は人を乗せるものじゃなかったんですよね!? それにシュヴァリエ様が乗ったんですか!? 危険なんじゃ……」
「ああ。実は、初めて乗ったときは、少し怖かった」
心配している僕を他所に、照れたように話すシュヴァリエ様。
それでも僕のために、自ら実験台になったみたいだ。
そして案内された場所には、扉がなくて、柵があるだけのエレベーター。
しかも人力だった。
「すごいですっ!! ミラジュー王国初のエレベーターだっ!!」
「ククッ。リュセの世界のエレベーターとは少し違うと思うが、喜んでもらえてよかった。それに私も、リュセの世界のことを知れた気がして、嬉しかったんだ……」
「っ、」
誰もを虜にするような笑みを向けられて、僕は胸を鷲掴みにされる。
ピュアすぎるよ、シュヴァリエ様っ!!
そんなところも好きっ!!
思わず抱きつくと、しっかりと抱きとめてくれたのだけど、なぜかシュヴァリエ様が謝罪する。
「この屋敷の階段を、すべて撤去できたらよかったんだが……。本当にすまない」
「っ、いやいやいや。こんな歴史あるお屋敷を、僕ひとりのために壊さないでくださいね?!」
なんの謝罪なんだとびっくりしていると、シュヴァリエ様が真剣な表情で頷いてくれた。
「ああ。だから、敷地内に新しく屋敷を建てることにした」
「…………へ?」
「リュセの実家と同じ造りの屋敷を用意しようと思っている。婚姻する日までには間に合わせる。だから、安心して嫁いできてほしい」
キリッとしたお顔で告げたシュヴァリエ様に、僕はしばし見惚れていた。
そして、一体いくらかかったんだと、二重の衝撃でクラリときてしまう。
腰が抜けそうな僕を、シュヴァリエ様は素早い動きで支えてくれる。
「おっと。大丈夫か?」
「っ…………か、かっこいいけれども!! やりすぎですよっ、シュヴァリエ様っ!!」
「……そうか? 屋敷はリュセの好む内装にしたくて、まだ手をつけてはいないんだ」
「良かった! それなら即刻中止してください! こんな素敵なお屋敷があるのに、お金の無駄遣いですよ……」
スケールが違いすぎると頭を抱えそうになったけど、シュヴァリエ様はまったく気にしていない。
むしろ僕を迎える準備をしている時間が、物凄く楽しかったらしい。
……可愛すぎて、なにも言えなくなった僕。
「自分のために使うことはなかったし、稼いでいるから大丈夫だ。個人資産もたんまりとある。……きっとエルヴィスさんよりも」
「……なぜそこで、エルヴィス母様?」
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