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婚約編
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しおりを挟む醜い容姿をカバーするために、その他のことで補って来たと話していたシュヴァリエ様。
でも本当は、単純に誰かとダンスを踊りたかったんだ……。
いつか来るかもしれないその日の為に、日々努力してきたのだろうなと想像しただけで、僕は目頭が熱くなっていた。
最初は、少し強引に誘ってしまって申し訳ないと思っていたけど、今は無理にでもお願いしてよかったと、心から思う。
──私の密かな夢を叶えてくれてありがとう。
その言葉を聞いた瞬間。
僕はシュヴァリエ様を抱きしめていた。
「これからは、嫌というほど夜会に参加して、一緒にダンスを踊ってくださいね? 僕はシュヴァリエ様のリードじゃないと、ボロが出ちゃうので」
「っ……ああ、ありがとう」
「お礼を言うのは僕の方……。シュヴァリエ様のパートナーになれて、とっても嬉しいです」
私もだ、と答えたシュヴァリエ様の腕が、僕の体を抱き寄せる。
「月が、綺麗だな……」
「っ、はいっ」
今はあいにくの曇り空。
それでも僕は、夜空を見上げ続けるシュヴァリエ様に同意した。
泣き顔を見せたくないのだと気付いているから……。
◇
会場に戻ると、僕の同級生たちが集まってくる。
賛辞のお言葉を貰う僕は、笑顔でお礼を述べるけど、みんな顔が真っ赤だ。
「普段も美しいが、今日のリュセは格段に美人だからだろう」
「っ、そ、そっかぁ……。なんだか慣れません」
シュヴァリエ様に耳打ちされて、ようやく事態を把握する。
僕と同じようにダンスを頑張りすぎたのかと思っていた僕は、やっと話せた同級生の方々におかしな発言をするところだった。
……危なかった。
僕はまだ学生だけど、いずれは公爵夫人になるのだから、発言には気をつけないといけない。
前までは恐れ多いと思うこともあったけれど、今はきちんと自覚しているんだ。
美醜の感覚が違うことには大分慣れてきたのだけれど、みんなの目には僕が美人に見えていることを、つい忘れてしまう。
……というより、信じられない。
「よ、よろしければ、記念に、ダンスを……」
「オイ! ズルいぞッ!」
「俺だって、リュセ様と踊りたいのを我慢してるのにっ!」
ふくよかな同級生たちから、ダンスの申し込みをされる僕。
これを機に仲良くなりたいと思うのだけど、シュヴァリエ様を一人にしたくない。
そう思う僕は、笑顔で「ありがとう」と告げた。
「でも、今日は少し疲れてしまって……。体力がなくてすみません」
「っ、いえ、とんでもないっ」
「リュセ様とお話出来ただけでも光栄です!」
「ゆっくり休んでください!」
労いの言葉をかけてくれた彼らは、笑顔で去っていく。
その背を見送った僕は、ほっと息を吐いた。
「せっかくの機会だ。私のことは気にしなくてもいいんだぞ?」
声をかけてくれたシュヴァリエ様は、僕に友人が少ないことを知っている。
また、一人になるのは慣れている、なんて言い出すのではないかと心配になる僕は、優しいシュヴァリエ様に寄り添った。
「ふふっ。今日はずっと一緒にいたいです。あ、今日も……ですね?」
にこりと微笑むと、シュヴァリエ様は照れたように笑って頷いていた。
それから、シュヴァリエ様と共に壁の花になっている人たちのもとへ行く。
未来の第二騎士団員たちだ。
パートナーを見つけられなくて、友人たちと参加している彼らに、僕は笑顔で声をかける。
「僕たちもまぜてもらえますか?」
「っ……リュセ様」
「同じクラスなので、はじめましてではないですけど……。初めてお話ししますね?」
そう言って、さりげなく会話に参加する。
僕がみんなの名前を覚えていたことに全員がぶったまげていたけれど……。
同級生だし普通のことだと思う。
それに僕の目から見ると、彼らはイケメンだ。
美醜が逆転していることを知っていたとしても、僕はぼっちだったから話しかけることはなかったと思う。
それでも、シュヴァリエ様のように辛い思い出になる未来を回避出来たらと、パーティーが終わるまで輪になって談笑していた。
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