上 下
40 / 100
婚約編

しおりを挟む


 醜い容姿をカバーするために、その他のことで補って来たと話していたシュヴァリエ様。

 でも本当は、単純に誰かとダンスを踊りたかったんだ……。

 いつか来るかもしれないその日の為に、日々努力してきたのだろうなと想像しただけで、僕は目頭が熱くなっていた。

 最初は、少し強引に誘ってしまって申し訳ないと思っていたけど、今は無理にでもお願いしてよかったと、心から思う。


 ──私の密かな夢を叶えてくれてありがとう。

 
 その言葉を聞いた瞬間。
 僕はシュヴァリエ様を抱きしめていた。

 「これからは、嫌というほど夜会に参加して、一緒にダンスを踊ってくださいね? 僕はシュヴァリエ様のリードじゃないと、ボロが出ちゃうので」
 「っ……ああ、ありがとう」
 「お礼を言うのは僕の方……。シュヴァリエ様のパートナーになれて、とっても嬉しいです」

 私もだ、と答えたシュヴァリエ様の腕が、僕の体を抱き寄せる。

 「月が、綺麗だな……」
 「っ、はいっ」

 今はあいにくの曇り空。
 それでも僕は、夜空を見上げ続けるシュヴァリエ様に同意した。
 泣き顔を見せたくないのだと気付いているから……。





 会場に戻ると、僕の同級生たちが集まってくる。
 賛辞のお言葉を貰う僕は、笑顔でお礼を述べるけど、みんな顔が真っ赤だ。

 「普段も美しいが、今日のリュセは格段に美人だからだろう」
 「っ、そ、そっかぁ……。なんだか慣れません」

 シュヴァリエ様に耳打ちされて、ようやく事態を把握する。
 僕と同じようにダンスを頑張りすぎたのかと思っていた僕は、やっと話せた同級生の方々におかしな発言をするところだった。
 ……危なかった。

 僕はまだ学生だけど、いずれは公爵夫人になるのだから、発言には気をつけないといけない。
 前までは恐れ多いと思うこともあったけれど、今はきちんと自覚しているんだ。

 美醜の感覚が違うことには大分慣れてきたのだけれど、みんなの目には僕が美人に見えていることを、つい忘れてしまう。

 ……というより、信じられない。

 「よ、よろしければ、記念に、ダンスを……」
 「オイ! ズルいぞッ!」
 「俺だって、リュセ様と踊りたいのを我慢してるのにっ!」

 ふくよかな同級生たちから、ダンスの申し込みをされる僕。
 これを機に仲良くなりたいと思うのだけど、シュヴァリエ様を一人にしたくない。
 そう思う僕は、笑顔で「ありがとう」と告げた。

 「でも、今日は少し疲れてしまって……。体力がなくてすみません」
 「っ、いえ、とんでもないっ」
 「リュセ様とお話出来ただけでも光栄です!」
 「ゆっくり休んでください!」

 労いの言葉をかけてくれた彼らは、笑顔で去っていく。
 その背を見送った僕は、ほっと息を吐いた。

 「せっかくの機会だ。私のことは気にしなくてもいいんだぞ?」

 声をかけてくれたシュヴァリエ様は、僕に友人が少ないことを知っている。
 また、一人になるのは慣れている、なんて言い出すのではないかと心配になる僕は、優しいシュヴァリエ様に寄り添った。

 「ふふっ。今日はずっと一緒にいたいです。あ、今日……ですね?」

 にこりと微笑むと、シュヴァリエ様は照れたように笑って頷いていた。

 それから、シュヴァリエ様と共に壁の花になっている人たちのもとへ行く。
 未来の第二騎士団員たちだ。
 パートナーを見つけられなくて、友人たちと参加している彼らに、僕は笑顔で声をかける。

 「僕たちもまぜてもらえますか?」
 「っ……リュセ様」
 「同じクラスなので、はじめましてではないですけど……。初めてお話ししますね?」

 そう言って、さりげなく会話に参加する。
 僕がみんなの名前を覚えていたことに全員がぶったまげていたけれど……。
 同級生だし普通のことだと思う。

 それに僕の目から見ると、彼らはイケメンだ。
 美醜が逆転していることを知っていたとしても、僕はぼっちだったから話しかけることはなかったと思う。
 それでも、シュヴァリエ様のように辛い思い出になる未来を回避出来たらと、パーティーが終わるまで輪になって談笑していた。








しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...