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シュヴァリエ
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しおりを挟む愚かで傲慢なミイルズを黙らせたリュセは、あの男を恐れる必要などない。
それでも不安に思う気持ちがあるのは、きっと美醜の感覚が逆転していることが関係しているのだろう。
誰しもがミイルズを醜い容姿だと判断しているということは、リュセにとっては絶世の美人だ。
いくら私があの男を嫌っていたとしても、私もリュセの立場だったなら、不安に思うかもしれない。
今までの愚行もあり、ブレイク男爵家を没落させることは簡単なことなのだが……。
きっとリュセは、そんなことを望んではいないだろう。
リュセと共に公爵邸に戻れば、ミイルズの兄が謝罪に訪れた。
ミイルズには容姿も性格も全く似ていないミラン・ブレイク。
床に額を擦り付けて謝罪する彼を見たリュセに促され、今回の騒動の責任は、本人に償ってもらおうと話し合った。
私のことを心底気持ち悪いと思っているあの男には、そんな醜男に失恋した哀れな人間になってもらう。
修道院で性格を矯正できればいいが、自身の愚行に気付けないうちは、我が子を抱く未来が訪れることもないだろう。
自身を特別な存在だと豪語していた男が、子宝を授かることのないまま過ごすのだ。
リュセとミランには感謝されることとなったが、ミイルズからしてみれば地獄だろう。
あの男にとっては、ブレイク男爵家が没落することより、屈辱的な仕返しとなるに違いなかった。
父はもちろん協力すると、後は任せておけと話してくれたが、自分でも驚くほど意地の悪い決断をしたと思う。
そのことに気付いているのかいないのか……。
晴れやかな笑顔になるリュセは、ミランと私の父の三人で、仲良くお茶をしていた。
「先程は、訓練場にいなかったのに、居たと思われていて……。話を聞いてすぐに飛んできました。でも、私が訓練場に居たとしても、存在感はないんですけど……」
「その気持ちはわかるな。実は、私もあの場にいたんだが、誰にも気付かれなかったよ。これでも公爵なんだがな?」
「ふふっ、モブあるあるですね! 僕も学生時代はずっとそうでした。先生からの評価はいつも、おとなしくていい子」
「っ、私も同じですっ!」
平凡な容姿の二人と意気投合する、美しき婚約者を見ていると、なんだか不思議な感覚になる。
だが、控えめな性格のミランが、時折私がいることも忘れてリュセに見惚れていることが気になる。
……これが、嫉妬という感情なのか。
内心穏やかではないのだが、リュセに笑いかけられると、もやもやとした感情も自然と消えていた。
◆
──その後。
社交界では、私たちの噂で持ちきりだった。
生涯一人の人を愛すると誓った者もいれば、リュセを見習い生活態度を改めようとする者も増えた。
特に、傲慢だった者たちの心に変化を与えたリュセの評判はうなぎのぼりだ。
公爵夫人になる前から、社交界の中心人物になる未来が見えている。
皆の憧憬の的として君臨しているリュセだが、本人は至っていつも通り。
そんな素敵な人を伴侶に迎えられる幸せを、私は毎日噛み締めている。
最愛の人の前では、表情を取り繕う必要もなく、素でいられる。
そんな毎日が、私にとっては至極幸福な時間だ。
「シュヴァリエ様っ! 早く着てみてくださいっ! あっ。やっぱり、当日のお楽しみにした方がいいかな……? 絶対かっこいいっ。今すぐ写真をっ! いや、目に焼き付けるしかないのかっ! 欲を言えば、プライベートでも着てほしいですっ!」
ダンスパーティーで使用するお揃いの衣装が仕上がり、興奮を隠しきれないリュセが、今日も楽しそうに私の隣で笑っている。
婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?
当初そう思っていた私は、もうどこにもいない。
fin
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これにて、本編完結です。
ほのぼのとした気持ちになっていただけたら幸いです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました‼︎(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
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