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ミイルズ
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しおりを挟む「こんなこと、許せない……。許せるわけがないっ!! ブサイクの分際で──ッ!」
「っ、いい加減にしなさい!」
気の弱い父が声を荒げ、乾いた音が鳴る。
頬に鋭い痛みが走り、気付いた時には僕は無様に自室の床に転がっていた。
どんなに醜い容姿だったとしても、一度として父に打たれたことがなかった僕は、驚きすぎて言葉を失う。
そんな僕の目の前では、育て方を間違えてしまったと悔やむ父が、おめおめと泣いている。
性格だけでも美しくあれと、耳にたこができるほど話していた母は、今は口を閉ざしていた──。
騎士団での出来事は、あっという間に世間に知れ渡っていた。
子を宿すことの出来る者たちは、神に選ばれし存在だと言われている。
だから美人ではない僕だって、周囲から崇められるような特別な存在なんだ。
そんな特別な僕たちの中でも、優劣がある。
恋人の人数や爵位によって、自分たちの価値を見出していたんだ。
それなのに、彼らの中でも内面も外見も飛び抜けて優れているリュセ様が、一人の人を愛することを誓ったんだ。
それも、相手はミラジュー王国一の醜男。
驚かない方がおかしい。
しかも、僕が捨てた相手。
シュヴァリエだ。
……と言っても、捨てたわけじゃない。
一度は婚約を解消しているけど、あの男がどう足掻いても、シュヴァリエの相手は僕だとずっと前から決まっていたんだ。
だって、僕以外にあの男の容姿を受け入れられる人間なんていないから。
あの男が縋り付いてくるまで待っていてあげたのに、僕の興味を引きたいのか、婚約解消後は一度たりとも会いに来ることはなかった。
僕たちは結ばれる運命だと決まっているのに、本当に強情な男なんだ。
それなのに……。
突如として現れた異世界人のリュセ様に、あっさりと心を奪われていた。
最初は、僕たちの仲を邪魔をするリュセ様が憎らしくて仕方がなかった。
でもリュセ様を一目見て、僕は白旗を上げた。
嫉妬することすら烏滸がましいと思うくらい、凛とした美しい人だった……。
「あんなに綺麗な人が、どうして醜男の隣にいるのか理解出来ない……」
「ミイルズ……。もうやめないか」
「そうよ。失恋したことを受け入れなさい。いつまでも見苦しいわ」
「…………はあっ!?!?」
僕と同じ色素の薄い金色の髪が醜い母が、呆れたように溜息を吐く。
この僕が、失恋……?
冗談じゃない。
見目麗しい相手ならまだしも、シュヴァリエなんかに失恋しただなんて、恥でしかないだろう。
「なんで僕が失恋したことになっているの!? ありえないからっ!!」
勘違いをしている両親に苛立つ僕は、いつものように怒号を放つ。
それでも、両親の浮かべる哀れな子を見るような表情が変わることはない。
「ずっとライトニング公爵子息に付き纏っていたんだろう? お前の元恋人たちからも話を聞いて知っているんだ。シュヴァリエ様がお優しいお方だったから、今までのお前の愚かな行動を許されてきたらしいが……。自分のことを棚に上げて、容姿を貶すだなんて──」
「っ、ブサイクにブサイクって言ってなにが悪いの!? 美人ですねって嘘をつく方が、余計に傷つくんだよ!!」
「ハァ。だからといって、面と向かって言うことじゃないだろう。なぜそんなこともわからないんだ……。自分がされて嫌なことを、どうして平然とできるんだ? それも、慕う人に対して」
「っ、だから!! 違うって言ってるでしょ!?」
全否定しているのに、二人は溜息を吐くばかり。
平凡だけど真面目な兄のミランにばかりかまっていた二人は、僕のことをなに一つ知らないんだ。
いくら聞き分けがない子だからと、放置してきたツケが回ってきたと話す二人を睨んでいた僕は、知らなかった。
僕がシュヴァリエに失恋して、修道院行きになる未来がすでに決められていることを──。
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