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リュセ
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しおりを挟む心底面倒だと言わんばかりのシュヴァリエ様が、「断る」と即答する。
「っ……この僕が、これだけ折れてあげているのにっ!!」
激昂するミイルズさんだけど、深く息を吐き出して、必死に怒りを堪えている。
シュヴァリエ様を助けたいと話していたけど、実際には自分のことしか考えていないことが、よくわかった。
実は、ライトニング公爵家とサルース商会から睨まれたことで、ミイルズさんは恋人三人に別れを告げられたらしい。
僅かな額だったみたいだけど、金銭的に支えてくれていた恋人がいなくなったんだ。
それでも優雅な生活を続けるために、なんとかシュヴァリエ様を説得しようとしているのだろう。
やはり、ミイルズ・ブサイクだ。
くりっとした瞳が可愛らしいのに、僕の目にはどんどん醜い顔に見えてきた。
性格の悪さが顔に滲み出ている。
「もう仕方がないから、一番に婚姻してあげる。それで満足でしょ? 夢を見るのは、今日で終わりっ!!」
「何番目だろうと、お断りだ。お前がいくら美人でもな?」
シュヴァリエ様の嫌味に気付いたミイルズさんの顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
「~~ッ!!!! リュセ様の一番になれたところで、どんどん伴侶が増えていくんだよ!? それは、僕より多くなるはず。しかも、アンタより魅力的な人ばかりだよ? そんな中で生活したら、死にたくなるに決まってるっ!! 自分の首を絞める行為だって、なんでわからないのっ?!」
シュヴァリエ様のために言っているように聞こえるけど、なんで勝手に僕も重婚することが決定されているんだろう?
話しても無意味な気がするのだけど、これ以上シュヴァリエ様を煩わせてほしくない。
僕が口を開こうとすると、抱き上げてくれている逞しい手に、グッと力が入った。
「傷付くことには慣れている。どれだけ苦しむ未来が待っていたとしても、リュセと共にいられるのなら、私は別にかまわない」
鋭い視線で言い返したシュヴァリエ様に、ミイルズさんがたじろいだ。
周囲の人たちに、シュヴァリエ様の僕への一途な想いが届いたのか、パラパラと拍手が送られる。
音がどんどん大きくなり、「よく言った!」とシュヴァリエ様は拍手喝采を浴びていた。
見物客が一体となる。
でも僕だけは、さっきより酷い頭痛がしていた。
「下ろしてください」
淡々と告げた僕に、少し驚いた様子のシュヴァリエ様だったけど、じっと見つめていれば、ゆっくりと僕を地面に下ろしてくれる。
「婚約を見直しましょう」
呆然とするシュヴァリエ様は、なにを言われたのか理解できていないようだった。
「っ…………どうして」
「どうして? シュヴァリエ様は、本当に僕のことが好きなんですか?」
「っ、もちろん好きだ、愛してるっ」
「…………そうは思えない」
初めて聞いた愛しているの言葉に、鳥肌が立つ。
めちゃくちゃ真剣なシュヴァリエ様が格好良すぎて、目がチカチカするくらい眩しいのだけど……。
でも僕は怒っているんだ。
むっとしていると、僕に嫌われたと思ったのか、端正なお顔は絶望したような表情に変わった。
「……ふふふっ、あはははっ!! 喧嘩してくれてラッキー♡ 残念だったね? やっぱり背伸びしすぎなんだって。ようやく当主になれるかもしれなかったのに、今更ライトニング公爵家から追放されるのも嫌でしょ? 僕に求婚したら考えてあげてもいいよ? ね、シュヴァリエ」
急にけらけらと笑い出したミイルズさんが、僕たちの話に割り込んで来る。
僕が不機嫌丸出しで部外者を一瞥すると、心底愉快そうに笑っていた声が、ぴたりと止まった。
「僕の愛する婚約者の名前を、馴れ馴れしく呼ばないでくれませんか?」
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