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リュセ
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しおりを挟む訓練場の三分の二を広々と使用しているのは、ぷるんとした肉付きの良い男たち。
いかに自分たちが美しく見えるかを知り尽くしているような動きは、とてもゆったりとしていた。
剣の稽古をしているというより、お芝居を見ているみたいだ。
キメ顔で汗を流している彼らは、きっと平和ボケしているのだろう。
国民を守る使命を、思い出してほしい。
大勢の見学者から黄色い声援を浴びる第一騎士団員だけど、僕にはわがままボディのナルシスト集団にしか見えなかった。
そして彼らに追いやられるように隅にいるのは、パステルカラーの髪色が美しい人たち。
柔らかく、淡い髪色が目に優しい彼らは、しなやかな筋肉を身にまとっている。
本格的な剣の打ち合いをする第二騎士団員は、贔屓目なしにも本物の騎士様だった。
僕の予想を遥かに凌駕する、爽やか系イケメン集団だ。
一人一人が恋愛小説の主人公並みの美貌の持ち主なんだけど、そんな彼らの中心には、長い白銀の髪を靡かせる一際綺麗な人がいる。
なにを隠そう、僕の婚約者様だっ!
美形に囲まれても、圧倒的な美しさだ。
格好よく指示を出しているのかと思えば、シュヴァリエ様の隣にいるモブ顔の人が団長らしい。
いい感じにシュヴァリエ様の美貌を引き立たせている。
僕並みの立派なモブだ。
彼もいい仕事をしていると頷いた僕は、普段よりもキリッとしたシュヴァリエ様に見惚れていた。
「純白の騎士服がこんなに似合う人は、この世でシュヴァリエ様ただ一人だっ!」
大勢の見学者たちが、普段は第一騎士団を見るために使用する望遠鏡で、うっとりとしている僕を見ていることにも気付かずに、ほうっと声を上げる。
騒ついていた訓練場が、いつのまにか静寂に包まれていた。
その異変に、いち早く気付いた第二騎士団の美形たち。
日本でいう甲子園球場のライトスタンドを独占している僕に視線が集まった。
そして大好きなシュヴァリエ様が、僕を見つけて驚愕している。
他に見学者がいれば、目が合ったのは勘違いかもしれないと思うけど、僕の周囲には護衛陣以外は誰もいないんだ。
間違いなく、僕を見つけてくれたと確信した。
「シュヴァリエ様……っ♡」
嬉しくて手を振る僕。
もちろん稽古の邪魔をしてはいけないとわかっているので、胸元で控えめに、だ。
そんな姿が、ミラジュー王国の方々からは、奥ゆかしい女神様のように見えているだなんて思ってもいない僕は、シュヴァリエ様に熱い視線を送り続けていた。
手を振り返して欲しかったけど、僕が現れたことに驚いたのか、シュヴァリエ様は微動だにしない。
……隙だらけの顔も可愛いっ。
サプライズは大成功だ!
でも、僕はシュヴァリエ様に手を振ったのに、どうしてか遠方にいる第一騎士団の人たちが、大きく手を振っていた。
冬眠の準備をしているかのような体型の彼らに、僕の知り合いはいないので、すっと手を下ろす。
騒然となったけど、訓練は再開された。
僕がいると集中出来ないのか、シュヴァリエ様はさりげなくチラチラとこちらを見ている。
それでも剣筋が良くて、誰にも負けない圧倒的強者だった。
普段の少し自信なさげなシュヴァリエ様とのギャップに、僕は眩暈がしていた。
「予定より早く昼休憩になりそうです。行きましょうか」
あっという間に一時間が経過していて、どうしてか苦笑いするベアードさんに声をかけられる。
うん、と笑顔で頷く僕は、バスケットを片手にシュヴァリエ様のもとへ向かった。
観覧席から、「シュヴァリエ様っ!」と声を掛けると、どうしてか第二騎士団全員が振り返る。
「っ、リュセ……」
「差し入れを持って来たので、一緒に食べませんか?」
にこっと微笑むと、周囲の目を気にするシュヴァリエ様が、軽々と高い柵を飛び越えて、僕の前に立つ。
……いやいや、格好よすぎかっ!!
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