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リュセ
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しおりを挟むダンスパーティーまで、あと二週間。
僕が考案し、商会でも販売しているカレンダーに記入した『サプライズ訪問!』の文字を眺めて、ぱちんと頬を叩いて気合を入れる。
今日はどうしても目立ちたいので、青地の高級なベストを身に纏う僕は、緊張した面持ちで使用人たちに視線を向けた。
「ど、どう? 似合ってるかな?」
「はい。誰よりもお美しいですっ!」
「シュヴァリエ様も自慢に思うことでしょう」
鏡に映る平凡な日本人顔の青年に、『素材がいいからなにを着ても似合う!』と、褒めちぎってくれている。
それも、僕よりも美形な人たちが話しているのだから、なんだか変な気分だ。
でも、僕のモチベーションをあげてくれたみんなには、あとでボーナスをあげたいと思う。
笑顔になる僕は、さっそく手作りサンドイッチの入ったバスケットを手にして、いざ出陣だっ!
五月の青い風に背を押され、意気揚々と馬車に乗り込む。
シュヴァリエ様のことが心配でたまらない僕は、騎士団の訓練場に向かっていた。
誰がシュヴァリエ様の婚約者なのかを、周囲に認識してもらうためだ。
ライトニング公爵家から抗議文が届き、今は大人しくしているらしいミイルズさん。
でも彼がシュヴァリエ様に会うために騎士団にまで突撃したことで、一部では二人が復縁するかもしれないと、面白おかしく噂を立てられているんだ。
そのせいで、婚活パーティーでのことは、なにかの間違いなんじゃないかとまで言われる始末。
僕ですら夢かもしれないと思うことがあるけど、僕とシュヴァリエ様は間違いなく両想いだ。
なにせ、婚約してからは毎日会っているし、いつもぴったりとくっついている。
いずれライトニング公爵邸で僕が使用する部屋の内装だって話し合っているんだ。
気が早いかもしれないけど、婚姻後の話をするのはすっごく楽しい……。
毎日顔を合わせていても、早くシュヴァリエ様に会いたくてたまらない。
「サプライズ大作戦だっ!」
本日は、手作り料理を一緒に食べるミッションを遂行すべく、僕はひとり拳を突き上げた。
◇
昼前に護衛の人たちと共に騎士団の訓練場に着けば、既に見学に来ている人たちが大勢いた。
騎士の職業は人気が高くて、ファンクラブのようなものも存在しているらしい。
「シュヴァリエ様は、第二騎士団なんだよね」
「はい。現在は副団長を務めていらっしゃいますが、リュセ様との婚姻後は、団長に昇進することでしょう」
護衛のリーダーであるベアードさんが、ハキハキと答えてくれる。
髭が似合う、ぬいぐるみボディ。
思わずほっぺたやお腹に触りたくなるような魅力がある人だ。
ミラジュー王国では凄腕で有名な人みたいで、僕たちは到着して早々に注目の的になっていた。
僕の期待以上に熱い視線を集めることが出来たおかげで、僕とシュヴァリエ様のイチャつく現場を、多くの人が目撃するはずだ。
僕の口角が自然と持ち上がる。
モブは異世界で、心優しい美形の騎士様に愛されているのだっ!!
「お、おい、見ろよ……。リュセ様だっ」
「っ……リュセ様が色男たちを率いているぞ!」
「第一騎士団なんて、比べ物にならないくらいの美形集団じゃねぇかッ!」
「ベアード様も毛深くて素敵だけど、やっぱりリュセ様が飛び抜けて美人だよなぁ~」
計画通りに目立つことが出来て、脳内お花畑の僕の前に道が出来る。
観覧席に向かえば、なぜか見学者は左側に集中的に座っていた。
ガラ空きの右側の席に案内されてついていくと、どうしてか背後から悲鳴が聞こえて来たけど……。
シュヴァリエ様が所属する第二騎士団の人たちがよく見える席だ。
どれだけかっこいい姿が見られるのだろうと期待していた僕は、訓練場の隅に集まる美形騎士集団を目撃して、これでもかと目を見開いていた。
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