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リュセ
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しおりを挟む奇跡的に、三年間片想いをしていた相手と想いを通わせることが出来た僕は、早朝から百面相をしていた。
昨日の団欒中に眠りこけてしまった僕を、シュヴァリエ様がお姫様抱っこで部屋まで連れて行ってくれたらしい。
その話を、使用人たちに聞いた今。
なぜ爆睡することが出来たんだと、間抜けな自分に心底呆れていた。
シュヴァリエ様との夢のような時間を、写真に収めたかった。
……いや、この目に焼き付けたかった。
なんで起こしてくれなかったんだとぷりぷりしている僕は、使用人のみんなから生暖かい目を向けられている。
屋敷の使用人や商会で雇っている人たちは、みんな美形ばかりだ。
つまり、ミラジュー王国では容姿に自信がない人たち。
きっと心の中では、僕とシュヴァリエ様を応援してくれているのだと思う。
「次は絶対、半目で見つめてみせるっ!」
いつか寝たふり作戦を決行しようと企む僕は、既にオシャレをしている。
なにせ今日は、シュヴァリエ様とダンスの練習をするんだ!
卒業式では答辞を任されているのだけど、僕はそれよりも、卒業式の前に行われるダンスパーティーの方が不安だった。
みんな婚約者や恋人と参加するため、僕はシュヴァリエ様にパートナーになってほしいとお願いしたんだ。
そこでシュヴァリエ様も、まだ誰ともダンスを踊ったことがなかったことを知った。
いくら美醜の感覚が逆転していたとしても、シュヴァリエ様の内面を知らない人が多すぎると思う。
でも、ずっと片想いをしていた僕にとっては、幸運なことには違いなかった。
本当なら一週間後のお休みの日に会う約束をしたのだけど、待ちきれないとこぼした僕のために、仕事終わりに来てくれる。
なんて優しいんだと感動している僕は、シュヴァリエ様が来てくれる夕方まで、一人で猛練習する。
僕はシュヴァリエ様と違って運動音痴だ。
おみ足を踏んでしまってはいけないので、必死なんだ。
そうしてギリギリまで練習をして待っていると、シュヴァリエ様が会いに来てくれた。
騎士団での仕事終わりに駆けつけてくれた様子のシュヴァリエ様だけど、疲れを微塵も感じさせない爽やかさだ。
「シュヴァリエ様っ!」
「一人で練習していたのか?」
「はいっ! お仕事お疲れ様です! わざわざ来てくれて嬉しい……っ」
「うぐっ」
飼い主に会えて喜ぶ忠犬のように駆け寄る僕に、シュヴァリエ様が胸を押さえる。
手を繋ぎたいがために、早く練習しましょうと、さりげなく密着する僕。
そんな下心丸出しの僕に、シュヴァリエ様と共にいるお方が、くわっと目を見開いた。
「リュ、リュセ……。練習の前に紹介する。私の父だ」
「っ……」
僕はシュヴァリエ様のお父様であり、現ライトニング公爵と、熱い視線で見つめ合う。
ただ、二人とも驚愕した表情だ。
偉い人だから驚いたわけじゃない。
僕と同じ、まごうことなきモブ顔だったからだ。
仲良くなれそうだと思っていたのだけど、お父様は瞬きの仕方を忘れたかのように固まっていた。
本当なら目上の人が先に話してから、僕が声をかける流れなんだけど……。
困り顔のシュヴァリエ様に流し目を送られた僕は、笑顔で挨拶をする。
「お初にお目にかかります。リュセと申します。シュヴァリエ様には、三年前から迷惑ばかりかけているのですが……。これからはシュヴァリエ様を支えられるような、良き伴侶となれるように精進したいと思っています。よろしくお願い致します」
深々と頭を下げる僕に、ふたりが息を呑む。
どうしてか、シュヴァリエ様まで驚いているのだけど……。
昨日の僕の熱烈なアプローチは、なかったことになっている……?
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